蓮
青みがかった白い蓮が、庭の池に咲いた。
一輪だけの白い花。
植えた覚えのない花は、朝一番の光を浴びて、かすかな音をたてて、花ひらく。
朝の光に照らされる、凛とした風情に、心奪われた。
私は、花を、ただ、眺める。
しかし、花は、すぐに、萎れてしまうだろう。
もとより、さして日持ちするものではない。
誘われる虫たちに、私の心は、はらはらと、小波だった。
虫に、荒らされるくらいなら。
ポキリ―――――
ツンとした香が、鼻を射た。
気がつけば、私は、蓮を、手折ってしまっていた。
手の中で、花が、かすかに、震えている。
己の為した蛮行に、心が悲鳴をあげていた。
しかし、心の片隅は、虫に散らされるくらいなら―――と、手の中に感じる花の重みを心地好く感じているのだ。
音もなく、ひとひらひとひら、花びらが散る。
窓辺に活けた、青白い花首は、みるみる、その姿を、水盤の中に、散らしていった。
それでも、私は、花を、手放せない。
私の手で、その姿を変容させていった、その、可憐で凛とした、一輪の花が、どんなに姿を変えたとしても、その花を手放すことはないだろう。
たとえ、一陣の風に吹きさらわれる、そんなたあいのない塵芥に成り果てようと、その花が、私のものであることは、永劫変わらぬ事実であるのだ。
今はただ、水をたたえた水盤が、窓辺に光を遊ばせているだけである。
しかし、そこに、私は、幻の蓮を、見る。
永劫、私の胸に刻まれた、その、姿を、私は、水盤の中に捉えつづける。
おわり
start from 14:28 2005/08/23
to end 14:46 2005/08/23
あとがき
う〜ん。こりは……なんでしょう。
「誰かさん」が「誰かさん」への胸中を、独白してるって感じですかね。どのカプでもいけそうかも。あえて『十二国記』にしたのは、やはり、この話の中の花=蓮だからでしょう。
乙女の入った、散文形式のポエムですな。
楽しめると、いいんですが、無理ですか? スミマセン。
ちょっち疲れ気味の魚里でした。
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