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Dance with a Hedgehog.

Dance with a Hedgehog.




 ―――いったいなんだってこんな目に。
 それが、オレの正直な気持ちだ。
 食べているものから目を背けながら、オレは、途方に暮れてた。
 けど、ピンクがかった茶色いものがピルピルと揺れているのを見ちまって、オレは、こみあげてくるものを堪えるのに必死になった。
 ある朝目が覚めると毒虫――じゃない、ハリネズミになっちまってたなんて、ギャグもいいとこだ。けどな、ハリネズミのオレと、こうして考えてるオレ との間には、奇妙なズレみたいのがある。オレがこうしたいって思うとおりに、ハリネズミのオレは動かない。だから、オレの頭の中には、ヤな、認めたく ないある考えが、わいていた。もしかして、オレってば死んじまっててさ、それで、幽体だか霊体だかがこのハリネズミに憑いちまった――とか?
 縁もゆかりもないっつーのに、それはあんまりだろうと思わないでもないけど、これまでのオレの人生っつーのを総括して思い返してみれば、なんか ありそうでさ。
 正直、ドツボかも。
 オレの、人生は、ロクなもんじゃなかったからな。
 いや、マジな話。
 どこでどう間違っちまったんだか――――――って、オレが溜め息をついたときだった。
 ハリネズミの全身が、ピクッて緊張した。痛いくらいに、全身の神経が張り詰める。ぴくぴく鼻が動く。さわさわって、ひげも動く。
 なんか、見られてるみたいな気がするみたいだ。
 周囲を見ると、いた! 一匹のハリネズミが、やっぱオレのことっつーか、このハリネズミを見てる。
 逃げたほうがいいんだろうか。って、オレは考えて、そうしようって思ったのに。
 ポトンって音をたてて、喰ってたものが、地面に落ちて、のたりと伸びる。
 凄い勢いで突進してきたそいつに、オレは、威嚇すんだけど。
 けど―――――――――
 オイッ! 嘘だろ! 誰か、嘘だって言ってくれ………
 オレってば、よりによって、メス? メスのハリネズミってか?
 オスに後ろからのっかかられかけて、ゾッて、鳥肌立っちまった。いや、気分的に、だけどな。
 火事場の馬鹿力ってやつかな。這う這うの態でどうにか逃げ出すことができたオレは、力尽きて、ぱたっと、その場に伸びた。んで、次は、でっか い鳥に襲われて、キーキー鳴いてた。丸まったり牙剥いたり。こっちも命がけだ。

 そんなオレを助けてくれたのが、桓堆だったんだ。

 げっそりとやつれてて、こっちが大丈夫か? って、心配しちまうくらいだったけど、それには相応の理由があった。
 桓堆の思い人が、眠りの病にとっつかれちまって、目覚めないんだそうだ。医者もまじない師も匙を投げて、国中が悲しみのどん底だ。
 なぜ――――って。
 桓堆の思い人は、この国の女王さまなもんだからさ。
 で、まぁ、桓堆は、本当なら女王さまの傍にいたかったらしいんだけど、ふと、女王さまとの約束を思い出したんだそうだ。女王さまは、ハリネズミを 見たことがないというので、今度見せてさしあげます――って、請け負ったらしいんだな。それを思い出しちまうと、居ても立ってもいられなくなって、 それで、探しに出かけたんだと。で、タイミングよく、オレは、助けられたってわけだ。
 真っ赤な髪に褐色の肌の整った顔立ちの少女が、天蓋つきのベッドの中で静かに眠っている。
 とりあえず、女王さまには悪いけど、オレにとっちゃラッキーだったかもなと、桓堆の懐から顔だけ出して、オレは、女王さまを見下ろしてた。
「女王陛下――陽子………お約束のハリネズミです。見たいと、そう、仰られていたでしょう」
 掻き口説くような低めの美声が、豪華な室内にポツリと落ちて消えてゆく。
 オレはベッドの上で、女王さまの匂いをかいだり柔らかい頬を手で触ったりと、忙しない。あ、いっとっけど、まだ、オレは、野生のハリネズミから主 導権を奪えてないので、これは、オレの意思じゃない。けど、オレは、あることに、気づいたんだ。
 女王さまをとりまいている空気に、黒い魔法の気配があるってこと――に、だ。
 この国のまじない師ってば、ヘボ? オレでもわかること気付かなかったってか? いや、オレが、そっちの方面にどっぷりひたってっからかなぁ…… …。ま、いいけどさ。それはともかくとして、この魔法の解きかたなら、オレにだってわかる。うん、あれだ。あれ! けど、桓堆に教えようにも、悲しい かな、オレは、ハリネズミ。やっとのことで、本来のハリネズミから主導権を奪うことができたけど、キーキーと鳴きながら、ベッドの上で祈るように組ん でいる桓堆の手の甲を引っ掻くっきゃできないんだ。なんだかなぁ。やっぱ、オレってば、役立たずだ……………。
「ん? 腹でも減ったのか?」
と、青い顔を少し笑いに歪めて、ポケットから取り出したクッキーを、桓堆はオレにくれた。
 よかった。まともな食いもんだ。オレは、それを両手で握りしめて、食いついた。魔法の解きかたを教えないとって焦りは、食いもんの前に、どっか いっちまった。
「おまえ、ひとに飼われたことでもあるのか?」
 不思議そうに見てくるけど、クッキーくれたのは、あんただろ。いいじゃん。無駄になんなくてさ。
 クッキー一枚で腹いっぱいになったオレは、たちまち眠くなった。そうして、夢を見た。あいつの夢を。

 あいつ――昇紘。オレの旦那ってことになってる。不本意だけどな。

 夢の中のあいつは、静かに荒れていた。もともとしんねりムッツリってタイプで、ついでにムッツリすけべぇだけど、あそこまで眼つきが剣呑なあいつを、 オレは、これまで見たことがない。んで、あいつの目の前には―――オレか? はは、オレが、眠ってる。
 なんだよこれ。
 オレまで、眠り病か?
 眠り病、はやってんのか? 今。
 このシンクロにシティに、オレは、混乱しちまった。
 もしかして、オレも、黒い魔法にやられちまってんのか? いや、あいつとのキスなんざ日常茶飯事だし今更だけどさ。だから、キスひとつで魔法が 解けるなんて、逆に考えられない。そんな簡単なことだったら、あいつに解きかたがわからないはずがない。――どころか、とっくに試してるに決まっ てる。とっくにオレだって、ハリネズミから自分のからだに戻ってるだろうしさ。そんなこと、あいつにとっちゃ、造作もないことだ。あいつってば、魔王だか んな――――――――。だから、あんな怖ろしげな顔をあいつがするってことは、それが、鍵じゃなかったってことだろう。

 ―――――そこまで考えて、オレは、これは夢だろ、夢! って、ひとりで自分に突っ込みを入れた。けど、頭の隅の辺がさ、これは夢じゃない って、妙に醒めてたんだ。と、
『郁也』
 耳慣れた声に呼ばれた気がした。
 昇紘が、オレを、見ていた。
 ハリネズミのオレをだ。
 すっと、昇紘の、人間のオレの手を握っていた手が、ハリネズミのオレに差し伸べられる。
 これはほとんど習い性なんだけど、咄嗟に逃げようとしたオレの前脚を、昇紘の手が、握りしめた。
 ――ような気がした。
 キィッ!
 思わずあげた悲鳴。
 気がついたとき、そこは、女王さまのベッドの上だった。
 昇紘の姿はない。
 やっぱ夢だったのか――と、オレは、伸びをした。
「ん……」
 疲れて眠ってでもいたのか、桓堆が眠そうな目で、オレを見る。深い青い目が、ぼんやりとオレを見ている。
 オレは、ちょこちょこと歩きにくい布団の上を這って、桓堆の目の前に移動した。
 桓堆の差し出した掌に乗ると、桓堆が、顔の前に、オレを持ち上げる。
「どうした?」
 オレの目の前で、桓堆のくちびるが、動く。
 そうか。口角の下がり具合が、なんとなく、昇紘のと似てるんだな――と、オレは、桓堆のくちびるに、手を当ててみた。
 かわいて、ほんの少し、冷たい感じがする。でも、やっぱり、やわらかい。
 深い考えがあったわけじゃない。
 何かを考えてたわけでもない。
 オレは、桓堆のくちびるに、鼻面をよせていった。
 軽く、触れる。
 そうして、桓堆の掌から、ベッドの上に、飛び降りた。
 無謀な行動だったかもしれない。って、ハリネズミの手足って、メチャクチャ細いんだ。で、オレは、お約束みたく、ちょっとよろめいて、転んじまった。 けど、別に、骨も折れなかったみたいだし。
 よたよたと、オレは、布団の上を這って、女王さまの顔に近づいた。
 安らかな寝息が、なんとなく、甘い気がする。
 女の子のくちびるは、ほんのり赤くて、見てるだけなのに、照れてしまう。
 これから、しようとすることを考えると、しかたないか。
 オレは、女の子と、キスしたことないもんな。
 オレが知ってるのは、あいつのだけ。
 いや、それはどうでもいい。
 オレは、桓堆のくちびるの感触が残る口で、女王さまのくちびるに、軽く、触れた。
 そうして、オレは、桓堆を振り向いた。
 あんたが、キスすれば、簡単に解けるんだ。
 叫ぶけど、桓堆には、通じない。
 桓堆の青い目は、不思議そうにオレを見てるだけだ。
 そりゃそうだろうと思いはするけど、でも、こんだけオレが、恩返ししようってがんばってるんだし、少しは通じてくれたっていいだろうって、焦れたオレ が、もう一度――と、桓堆の腕をよじ登ろうとした時だった。
 突然の大きな雷に、オレは、足を踏み外して、ベッドの上に落ちちまった。
「大丈夫か」
 伸びてきた桓堆の腕が、オレを抱き上げ、止まった。
「なにやつ」
 誰何の声も厳しく振り返った桓堆の目の前に、あいつが、立っていた。
 あいつの機嫌そのままのような闇色に閉ざされた部屋の中に、開いた窓を背にした、あいつが立っている。
 ゴロゴロと雷が鳴り響く中、時折りの雷光に、あいつが、照らし出される。
 窓から吹き込む風に、長い髪が蛇のようにうねる。
「私のものを返してもらいに来た」
「おまえのものだと?」
 桓堆の訝しげな声に、スッと、あいつの右腕が上げられた。
 長いマントが、あいつの動きにあわせて複雑な襞を描く。
 キィッ!
 オレは、オレのからだが引っ張られるのを感じて、悲鳴をあげていた。
 桓堆が、オレを、反射的にとどめようとした。
 けれど、オレは、昇紘の手に、移動していた。
「それは、おまえのハリネズミなのか?」
「いや」
「ならば、もどせ。それは、私が女王陛下に差し上げたものだ」
「が、私のものを、このハリネズミが持っている」
「なにを馬鹿な」
 昇紘の黒い目が、オレを、見下ろす。
 バレてるんだ。
 オレは、なんかもう、疲れちまって、そのまま、昇紘の掌でじっとしてた。
 そんなオレを持ち上げて、昇紘は、オレに、くちづけた。
 はい?
 オレは、呆然としてた。
 だって、な。昇紘にくちづけられたと思った瞬間、オレは、オレに戻って、昇紘に抱きしめられてたからだ。
 なんでよ?
 なんで、キスひとつで、呪いが解けるわけ?
 キスが解呪の鍵なら、とっくに、解けてないとおかしいだろ?
 それとも、こいつ、意識のないオレにはキスしなかったんだろうか?
 混乱したままぼんやり見上げてると、
「私以外の誰とキスしたのか、後でじっくりと聞かせてもらおう」
 そんなことを言って、オレの目を、意味ありげに、覗きこんだんだ。
 へ?
 いや。
 まさか。
 もしかして、解呪の鍵って―――――
「そんなっ。オレはっ、桓堆に、解呪を教えようってそれで、ふたりにキスしただけだっ」
 咄嗟に、叫んでた。
「それにっ、あの時のオレは、ハリネズミだったんだし。そんなの、無効だっ」
「どんな姿をしていようと、おまえは私のものだろう」
「ち、違う。オレは、ハリネズミの中に閉じ込められてただけなんだっ。だから、ハリネズミとオレは、別のっ」
「だが、キスをしたのは、おまえの意思で――だろう?」
 ならば、私以外のものとキスを交わした罰は、受けてもらわねばな。
 楽しげに言い放たれ、オレは、全身の力が抜けてゆくのを感じていた。
 どうせオレは、こいつに敵わないんだ。
「というわけだ。女王の呪いは、おまえのくちづけひとつで解ける」
 郁也が世話になったな―――
 そう最後に言い置いて、昇紘は、オレを連れてその場から姿を消した。

 後に残された桓堆が女王にキスをしたかどうか、オレは知らないけど、しないわけないとオレは思うんだ。きっとあのふたりは、いつまでも仲良く暮ら しました―――って、ハッピーエンドなんだろうなぁ。

 ああ、そうだ。オレにかけられた呪いは、とばっちりに過ぎなかったらしい。魔王に戦いを挑んだ魔法使いの術が、何の因果かオレにかかったんだと ―――。あいかわらずの運に、オレが投げやりになったとしても、しかたがないよな?
 原因は昇紘じゃないかと噛み付いたって、昇紘が聞く耳持ってなければ、意味がない。
 結局、いつもみたく、オレは、あいつのいいようにされちまうんだ。
 オレは、オレの運のなさを呪って、深い溜め息をついたのだった。


おわり

start 21:06 2006/05/27(06/05/25)
up 15:39 2006/06/05

◇あとがき◇
 踊ってないな、この話。
 え、えと、念のため。ハリネズミの生殖行動を、魚里は、実は、知らなかったりxx 一応検索はかけたんですけど、未発見です。針あるし、お腹は 柔らかそうだし……う〜ん後背位なのか? オスのお腹が痛そうです。
 少しでも楽しんでいただけると、御の字なんですが……。どうですか?
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