休日〜神霊〜





 そうだな、オレは、うれしかったんだ。
 そりゃあ、十七にもなろうって男がさ、お袋に優しい言葉をかけてもらったからってくらいで喜ぶなんて、ダサいよ。けど、わかってても、オレは、表情が弛むのをとめることはできなかったんだ。なぜって、お袋は、いつも姉さんべったりで、オレのことなんか眼中になかったからさ。
 それは、姉さんがボディーガードの男と駆け落ちしちまった後も、あまり変わらなかった。
 そう。オレが、我が家の神霊に気に入られたからって、お袋にとって、浅野の跡継ぎは、あくまで、女という認識に変化はなかったんだ。オレは、単なる中継ぎに過ぎないってくらいだったんだろう。だから、表面上は、オレのこと大切にしてるみたいに見えてたけど、やっぱ、姉さんに対するのとは、違ってた。どちらかっていうと、オレが神霊に気に入られてる理由は、お袋にとって、唾棄したいものだったんだろう。や、それは、オレも、イヤなんだけどさ。うん。
 お袋は、姉さんの前の代の巫女候補だったから、潔癖なところがあるし。自分じゃなくって、妹が巫女に選ばれたってことに、拘りがあるみたいなんだよな。だから、姉さんが巫女に選ばれたことは、お袋にとっては、なんつーか、この上ない名誉なことだったんだろう。自分の代わりに娘がってことで、自分の役目を、やっと認めることができたってことなのかもしれない。そんなわけで、姉さんがすべてを捨てて出奔したことに関して、裏切られたって感情が強いみたいだった。
 その上、次の巫女は、男のオレでさ。お袋は、腹立たしいも通り越しちまってたんだろう。オレに対する丁寧な態度は、機械的なばかりで、オレは、やっぱ、寂しかった。
 すこしは、優しい言葉が欲しかったんだ。
 だって――な、オレは、なりたくて、巫子をやってるわけじゃないし。
 できれば、打っちゃっちゃって、どっかに逃げたい。
 ―――――けど、さ。浅野が、浅野として機能してくためには、オレがあいつ――我が家の神霊――に、身を投げ出すしかなかったんだ。っていうか、オレには、選択の余地なんかなかったしさ。あれよあれよって間に、あいつに、ヤられちまって、執着されちまってたって言うのが、本当のところだから。それは、純潔を一番にされてた巫女の候補だったお袋には、認められないことだったに違いない。
 そう。姉さんだって、誰だって、浅野の巫女は、一生、神霊に純潔で仕えなければならなかったからだ。なのに、男のオレには、そんなものは最初から求められなかった。純潔どころか、まるっきり逆の立場だから。
 ――客が来るたび、オレは、あいつに、からだを求められるんだ。
 あいつにヤられて、そうして、客の問いに、オレは、答えを見出す。そうすることでしか、客の問いに答えられない自分自身が、もどかしいというか、腹立たしいと言うか。しかも、それを、我が家にいるほとんどの人間が知ってるんだ。情けないよな。いたたまれないよな。ほんと。
 親父は、オレのこと気遣ってくれるけど、ことがことだけに、遠慮がちで。腫れ物に触るような雰囲気でさ。オレは、なんか、家の中でぽつんと孤立してるような心もとなさを味わってたんだ。

 だから、さ、オレが、うれしいって思ったって、仕方ないだろう?

「郁也さん。お正月の七日間が過ぎたら、十日ほど休暇を取りましょうか。あなたもお疲れでしょうからね」
 そう、にっこりと微笑んで、お袋は、言ってくれたんだ。
 信じられなかった。
 夢じゃないかって、オレは、思っちまった。



 年明けから七日間は、忙しくてたまらなかった。
 オレは、自分がなにをやってるんだか、まるっきりわからなくなってて、気がついたら、七日間なんかはあっというまに過ぎてた。
 そうして、オレは、浅野の別荘のひとつに向かってる。
 からだはくたくたで、何度も、舟を漕いでるオレに、
「眠っていいんですよ」
って、お袋が言ってくれたのに、オレは、従ってた。
 どれくらい眠ったんだろう。
 気がついたら、オレは、暖かな部屋のベッドの中だった。
 エアコンのかすかな音が聞こえる。
 だるいからだを起こして、オレは、窓にかかってるカーテンをそっと開けた。
 窓の外は、すっかり葉を落とした細い木ばかりで、その向こうには、月が、ぼんやりと、だらしなく、潰れたみたいな光を射している。
 ああ、明日は雨なんだな。
 そんなことを思って、オレは、カーテンを閉めなおした。
 別荘での休日は、いつまで惰眠を貪っていても、誰も何も言わない。あいつも現れない。
 天国だって、思ってた。
 彼女が、来るまでは。



 休日も折り返しを迎えたその日、オレは、リビングのソファで、転寝してた。
   からだはもう、そんなしんどくはなかったんだ。けど、怠惰な生活って、馴れちまうと、始末に悪いよな。なんにもしたくなくなるんだ。これが。休暇の前なんか、休みになったらあれもしたいこれもしたいって、計画立ててたりするんだけど、不思議と、テレビも見たいって気にならなかった。たいてい、昼近くに起きて、朝昼兼用の遅い飯を食って、ぼんやりとするだけなんだ。誰も叱らないから、知らんぷりを決め込んでるオレもオレ――だけどさ。



 そうして、彼女が、やってきたんだ。



 チャイムの音にも、オレは、反応しなかった。
 お袋か誰かが出るだろうから、無視だ、無視っ!
 案の定、お袋が応対してる気配があった。
 そうして、応接間じゃなくって、リビングのほうに、相手を連れてきたんだ。
「郁也さん。麻生の真由美さんが、新年のご挨拶に来てくださいましたよ」
って、まぁ、まだ旧正月は来てないけどさぁ。成人式なら済んでるぞ。かなり、遅れてないか。まぁ、元旦の一族の集まりに、真由美さんは来てなかったけどさ。なんだっけ、たしか、ゼミがあるとかなんとか。正月早々あるのか? とか思ったような記憶がうっすらとあるような。
 真由美さんっていうのは、親戚のおねーさんだ。いわゆる、従姉妹って関係かな。お袋の兄さんの娘さんだ。オレよか五つくらい上で、女子大生やってるはず。そろそろ卒業かもな。姉さんにはかなわないけど、それなりの美人さんで、オレは、昔、こっそりとあこがれてたことがある。だから、ちょこっと、元旦に来るかどうか、気になってたんだよな。
「郁也さん。しゃんと起きてご挨拶なさい」
とかなんとか、普通の親みたいなこと言ってるお袋に逆らう気力もなく、オレは、ソファから上半身を引き離した。
「ども」
 テーブルの向かい側に腰掛けた真由美さんに、頭を下げる。
 明けまして――って、遅ればせの挨拶が返ってきて、オレはちょっと焦った。
 そういや、正月の挨拶とか言ってたよなぁ。オレってば、パジャマのままだぜ。髪だって梳かしてないから、後ろなんか跳ねまわってるだろうな。そんなことを考えながら、
「今年もよろしく」
 オレは、もっかい頭を下げた。
 向かい合って座ってても、いったいなにを話せばいいんだか。真由美さんも、お袋が運んできたコーヒーをソーサーごと手にとって、ぼんやりしてる。
 時計の秒針が刻む音ばかりが、リビングに大きく聞こえてる。
 こんな遠くまで、わざわざオレに挨拶しに来たんだろうか。
 日帰りするには、今日はもう遅いよな。
 もしかして、泊まるんだろうか。
 たぶん、以前のオレだったら、ドキドキして、どうしようもなかったろう。けど、今のオレは、戸惑うだけだ。
 考えたくないけど、たぶん、からだだけじゃなくて、頭まで、あいつに毒されちまったんだろう。
 悲しいくらい、何も感じない。何も感じないことに、焦りさえ感じない自分を、なんか、別の自分が冷静に見てるような錯覚がある。
 だから―――――
 しかたないよな。
 オレは、オレを慰めた。
 誰も、オレを慰めてなんかくれないから。
 毎日みたいにあいつに好き勝手されてたら、オレじゃなくったって、こうなるに決まってる。
 オレのせいなんかじゃないんだ。
 絶対。
 なにもかも、あいつが悪い。
 駆け落ちした、姉さんが、悪いんだ。
 そんでもって、たぶん、オレの、運が、めちゃくちゃ悪いってだけのはなしなんだろう。
「え?」
 ぼんやりしてたオレは、真由美さんの話を聞きそびれたらしい。
 真由美さんは、そんな間抜けなオレを、ちょっとだけ笑って、許してくれた。
「お散歩にでも出ませんか?」
 もういちど、ゆっくりと、真由美さんが言った。
 ああ、散歩ね。
 オレは、少し考えた。
 ほんと言うと、着替えるのが面倒なんだけど。
 せっかく誘ってくれたしな。
 うん。
 せっかくの休みだし。
「着替えないと、さすがにこの格好じゃ駄目だろうし。いいかな」
 この辺は、うちの敷地だから、別にいいだろうけど、真由美さんの言う散歩がどれくらいのことなのか、わからないからな。
 どうぞ――と、やわらかく笑ってくれる真由美さんに、オレは、ほっと、安心した。
 オレがリビングを出てゆくのと入れ違いに、お袋が、リビングに入ってゆく。それを、なんとなく見送りながら、オレは、一階奥の部屋に戻ったんだ。
 白いタートルに穿き古したジーンズを穿いて、グレイのダッフルを羽織る。これで、準備はオッケーかな。鏡を覗き込むと、案の定、髪がピンピン跳ねていた。手櫛でどうにもならないので、オレは、水で髪を濡らして、梳かした。まぁ、そんなに見苦しくないかなって程度で、オレは、あきらめて、部屋を出たんだ。
「おまたせ」
 オレがリビングに戻ると、真由美さんとお袋は、ぴたりと黙り込んだ。
「?」
 なんだろって気にはなったけど、そんなにいつまでも拘らなかった。やっと外出する気になれたんだ。それだけでも充分だろうって、オレは、少しだけ、はしゃぎぎみだったんだ。
「郁也さん」
 途中お袋に呼び止められた。
「なに?」
 振り返ると、臙脂色のマフラーを手にしたお袋が立って手招いてた。
「寒いから、巻いて行きなさい」
 なんか、ふっと、胸が熱くなった。お袋にマフラーを巻いてもらうのなんて、幼稚園のガキの頃以来な気がする。
「サンキュ」
 オレは、照れながら、礼を言って、庭で待ってる真由美さんの後を追ったんだ。



 外は、なるほど、寒かった。
 オレは、亀がするみたいに、首をマフラーの中で竦めた。
 ふと見れば、真由美さんは、マフラーをしていない。コートの下にシルクっぽい光沢のスカーフを巻いているけど、それだけじゃ、寒いよな。ちょっとだけ悩んで、オレは、
「これ………」
 真由美さんの細い首に、マフラーを巻いた。
「ありがとう」
 真由美さんの声が、耳にくすぐったかった。
 門に続く林道を歩いていると、
「お姉さま。まだ、見つからないのですってね」
 真由美さんが、静かに口を開いた。
「うん。どこでどうしてるんだか。けど、南雲さんが一緒だからなぁ、元気でやってるんじゃないかなって思うよ」
 ――これは、確信だったりする。あ、南雲さんって、一緒に駆け落ちしたボディーガードの名前な。彼がいるんだから、世間知らずの姉さんだって、やってけるだろう。男のほうが世間知らずだったらともかく、男のほうは世慣れてるんだし。困らない気がするんだ。ふたりとも、健康だしなぁ。きっと、新婚さん気分なんだ、今は、まだ。
 真由美さんは姉貴と仲がよかったんだっけ。
「真由美さんのところにも、連絡ないんだ」
「ええ。信用されてないのかな」
 連絡くれたって、誰にも言わないのにね。
 寂しそうに微笑んだ真由美さんに、
「姉さんは、薄情だ」
 オレは、つい、本音をこぼしていた。
 そりゃあ、そんなに仲がよかったってわけでもないし、歳も離れてたけどさ。けど、元気にしてるってことくらい、知らせてくれたらいいと思うんだ。
「お袋だって親父だって、真由美さんだって、心配してるのにさ」
 オレは、足元の小石を、蹴った。
「郁也クンは、やさしいね」
 足を止めて、真由美さんがつぶやいた。
「どうしたの?」
「ううん。寒くなってきたから、帰ろうか」
「暗くなってきたしなぁ」
 今日は泊まってくんだよね。
 オレがそう続けたときだった。
 真由美さんは、なんだか寂しそうに、笑った。
 その笑みの意味を、オレは、後になって、知るんだ。
 そのときは、ただ、どうしたんだろうって、そう思っただけだった。



 お袋と真由美さんの三人で摂る食事に、最近めっきり食欲がなくなってたオレの箸も、いつもよりたくさん動いていた。散歩したのもよかったのかもしれない。砂を噛むような感じだった食べ物が、おいしく思えたんだ。
 ――明日から、少しだけ散歩してみようかな。
 だから、オレは、そんなことを考えてた。



 あれだけしか動いてないって言うのに、からだがだるくて、オレは、風呂に入るのもそこそこに、ベッドにもぐりこんだ。
 すぐに、睡魔が襲い掛かってくるのに、オレは、抵抗もせず、身をまかせる。
 深い眠りに引きずり込まれる心地よさに、すっと、オレは、寝入ってしまったらしい。
 オレの眠りを覚ましたのは、どこかで嗅いだような、甘い香だった。
 暗い部屋の中、何かの気配がする。
 ここには何も妖しい存在なんていないのに、迷い込んできたんだったら、ヤだなぁ。
 そんなことを考えて身じろいだオレは、
「郁也クン」
 かすかな声を、聞いて、その場にこわばりついた。
 動かなかったオレの布団を剥いで、真由美さんがするりと隣に入り込んできた。
 真由美さんのまとう香水の甘い香が、オレの思考を、麻痺させる。
「ま、まゆみさんっ?」
 思わず、手を突っ張ってた。
 なぜって、なぜって………。真由美さんが、オレに、その、キスしてきたからだ。
「だ、駄目だよっ」
 オレの声は、裏返ってた。
「どうして? わたしのこと、嫌い?」
 困ったような真由美さんの声に、オレは、枕の上で、頭を左右に振った。
「じゃない。嫌いじゃないけど、こんなんヤバイって」
 さすがに、心臓がドキドキしてる。
 女のひとのからだはどこもかしこもやわらかくって、すべすべしてて、あたたかい。
 どうしよう。
 このままじゃ、オレ……我慢できなくなっちまうよ。
「ドキドキしてるね」
 真由美さんがオレの胸に手を当てた。
 それだけで、オレの、乳首が、ツンと、立ち上がる。
 ヤだ。女の子じゃないのに………。
 オレは、うろたえて、暗がりの中、真っ赤になってた。
 だって、さ。乳首だけじゃなかったんだ。真由美さんに触れられたところから快感がじんわりと広がって、その、オレの……も、すこし、熱を持ったからだ。
 気づかれる。
 真由美さんのすらりとした足は、オレのからだをまたいでて、だから、あと少し、真由美さんが腰を落としたら、オレの欲望が目覚めかけてるってことに、気づかれちまう。
 だから、オレは、焦ってた。
「わたしもだよ」
 ほら――と、オレの手をとって、真由美さんが、自分の胸に触れさせる。
 うわっ。
 火に触ったような熱さを感じたような気がして、手を引っ込めようとしたけど、真由美さんは、意外に強い力で、離してくれなかった。
「なんで……だよ」
 ひくり――と、喉が鳴る。
 やわらかな胸の感触を掌いっぱいに感じながら、オレは、泣きそうだった。
 だって、こんなん違う。
 わかってた。
 真由美さんは、オレのことが好きだからこうしてるんじゃないんだって。
 散歩を切り上げたときの、真由美さんの寂しそうな表情が、頭の中によみがえる。
 これは、真由美さんの本意じゃない。
 じゃあ、いったい………。
 考えるまでもなかった。
「お袋に頼まれたからって、真由美さん、こんなことしないでよ」
 するりと、そんな言葉が、口から出ていた。
「オレ、真由美さんが、後悔するの、見たくないよ」
 真由美さんが、暗がりの中でオレを見下ろしてる気配があった。
「いいの。大丈夫だよ」
 少しの沈黙の後に、そんな言葉が、降ってきた。
「大丈夫じゃないよっ。だって、真由美さん、好きなあいているんだろっ」
 確信だったんだ。
 あの寂しそうな顔。あれは、何かをあきらめた表情だったんだ。
「やっぱり、郁也クン、巫子さまだね。なにもかもお見通しなんだ」
 オレは、首を左右に振る。振り続けた。
 だって、オレは、全身で感じてたんだ。
 あいつが、いるって。いつから、どこから、あいつがいたのか、わからない。けれど、あいつが、滴るような憎悪をこめてオレと真由美さんとを見ているのが、痛いくらいに感じられるんだ。
「駄目だ……よ。真由美さん。オレにこんなことしたら、あいつに、殺されちまう」
 あいつが誰のことか、真由美さんにはわからないとは思うけど。それでも、言わずにはおれなかった。
「けどね、郁也クン。たとえ殺されても、しないと駄目なんだ。でないと、叔母さま、うちを助けてくれないから」
 お父さん、騙されたんだ。仲のよかった友達に、騙されて、たくさん借金を押し付けられたの。
 叔母さまは、わたしが郁也クンの子供を生むのを条件に、うちを助けてくれるって、そう言ったから。
 だから。死ぬとしても、郁也クンと、しないと。
「いやだっ!」
 オレは、かぶさってくる真由美さんを、押しのけようとした。けれど、真由美さんはオレ以上に必死なんだろう。離れないとでも言うように、絡みついてくるんだ。
 そんなことされたら、オレのが、完璧に目を覚ましちまう。
 あいつが見てるのに、そんなことになったら、最悪――――だ。
「真由美さん、やめろっ」
 オレが、これ以上ないってくらいの叫び声をあげた瞬間、真由美さんは、オレから、引き剥がされて、床に転がった。
 真由美さんの悲鳴が、耳に痛い。
 けど、そんなことに気をとられてる場合じゃなかった。
 いや、オレの意識は、別のものに、捕らわれていたんだ。
 白々とした光をまとって、そこに浮かび上がっているものが、部屋を照らす。
 オレの無様な格好も、真由美さんのそれも。
 黒い瞳に憎悪と嫉妬とをこめて、昇紘が、オレを見下ろしている。
 オレは、氷点下の寒さを感じて、一気に震えだす。
 それが、昇紘の怒りのためだと、オレの恐怖のせいだと、わかっていた。
 ピシリ―――と、空気が、鳴る。
「ひっ」
 オレを打ち据えるのは、昇紘の怒りだった。
 憎悪であり、嫉妬だった。
 どこから襲い掛かってくるのかわからない、見えない空気の塊が、オレを、打ち据える。
 オレを、打ち続ける。
 オレは、ただ、あまりの痛みに、呻くことしかできなかった。
 やがて、朦朧となったオレは、 「いっ」
 襟首を掴みあげられた。
 噛みつくようなくちづけに、息を奪われる。
 このまま殺されるんだ――オレは、ただ、震えていた。
 けれど、違った。
 昇紘は、そのまま、オレを、犯した。
 最初の頃のように、情け容赦なく、無言のままで。
 いたわりも何もなかった。
 それは、ただ、オレを罰するためだけの、セックスだった。
 昇紘に犯されるオレを、真由美さんが、蒼白な表情で、見つめている。オレが、意識を失う寸前に見たのは、真由美さんの、怯えたような表情だった。



 オレの休日は、こうして終わりを告げたんだ。



 お袋は、次の朝、オレたちの惨状を見て、声もなかった。
 オレは、真由美さんのヒステリックな笑い声に、目を開けた。泣き続けて腫れたまぶたは重かったけど、真由美さんが、お袋に声をかけられて、ヒステリックに笑い続けているのが、見えた。そうして、やがて声もなく泣き出した真由美さんが、放心したのも、見ていた。
 お袋は、オレの様子にも、パニックを起こしたみたいだった。それだけ、オレの有様も、ひどいもんだった。オレは、その後、一週間近く熱を出して寝込む羽目になっちまった。それに、お袋は、なにやら、あいつが激怒してるって夢を毎日見ていたらしい。怯えきったお袋が二度と、オレに子供をと、無茶をすることはなかった。
 真由美さんちの借金をお袋がすべて肩代わりしたってオレが聞いたのは、オレの体調が元に戻ってからのことだった。



 あれ以来、昇紘は、四六時中オレのそばにいるようになった。
 オレは、昇紘に縛り付けられて、以前以上に、息が詰まってしかたがない。
 怖いけど、オレには、どうすることもできやしない。
 逃げ出すことなんか、できないんだ。
 どこに逃げたって、昇紘はオレを離しやしないんだ。痛いくらいに、教え込まれたから。
 オレは、ただ、黙って、昇紘を受け入れる。
 そうすることで、オレ以外のすべては、平和に、滞りなくやっていけるのだから。
 


 
おわり

start 11:55 2007/01/03
up 22:45 2007/01/03
◇ いいわけ その他 ◇

相変わらず、郁也くんにはごめんなさいな話ですねぇ。
昇紘さんひとり勝ち。
ううう。
お母様の非道さが際立つなぁ。
お父様は、存在感ないし。
真由美さんは、さて、どうなんだろう。ともあれ、真由美さんは、その後、元気にしております。が、おそらく、二度と、浅野の家には近寄らないものと思われます。そりゃそうだわな。あんな目にあったら、避けるわい!
ともあれ、お目汚し、失礼しました。 今回、真由美さん攻めなシーンに力を入れましたが、少しは、色っぽくなったかなぁ??? なぞです。
それでは、少しでも楽しんでいただけますように。
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