劣 情








 ※ご注意……アニメのキャラ設定でよろしくお願いします。



翌日の雨模様をしのばせる、ぼやけた三日月が、空に浮かんでいる。
冬の夜だというのに、その堂間の庭に面した窓は開け放たれていた。
火桶に燃える、火種も、さして、部屋を温めてはいない。しかし、堂間にいるふたりは、寒さすら感じていないようである。
カチャカチャと、重く冷たい音が、耳にうるさい。
耳につくそれ。
いいかげんやめろ―――と叫ぼうと振り返り、小司馬は、音を立てている少年をしばし凝視する。
庭に面した窓枠に背凭れて、熱でもあるかのように、いつも昏く潤んでいる瞳が、ぼんやりと銃というらしい武器に向けられていた。無意識なのだろう、その手は、執拗に、武器を弄っている。最初は玩具としか思えなかったそれが、かなり物騒なものだと、先日の里家襲撃で、小司馬は知った。
景王を助ける――その一念に凝り固まっているかの海客の小僧は、まさか、自分が景王を害する側に囚われているとは、夢にも思っていないに違いない。
教えてしまえば、この小僧はどんな反応を見せるだろう。
嘆くのか、逆らうのか。
暗い想像に、口角を歪めて、小司馬は杯を呷った。
昇紘が海客の小僧を連れてきたときは、なにを酔狂なと呆れたものだ。オドオドと落ちつきなく震えるガキが、なんの役に立つ。景王の蓬莱での学友ということだったが、邪魔くさいとしか思わなかった。ましてや、ことばの通じない海客の面倒を、仙であればことばが通じるという理由から任され、うんざりしたものだ。これが、年頃の娘というのであれば、楽しみもあったのだが、あいにく、浅野郁也という名の海客は、男だった。
(昇紘さまも、物好きな)
思わず、笑いがこぼれ落ちる。
村を焼き、女子供、老若の別なく、殺す。
昇紘の暴虐、精神の飢餓に比べれば、
(俺など可愛いものだ)
そう思わずにいられない。
(この小僧をね………)


里家を襲撃したその深夜、小司馬は、今と同じように酒を呷っていた。
ひとつ仕事を済ませた後の、美味い酒に、いつしか、卓子にうつぶせて眠っていたらしい。ふと、酩酊した意識に、誰かの悲鳴を聞いたような気がして、小司馬は、目を覚ました。
悲鳴など別段珍しいものではない。しかし、その声に、覚えがあるような気がした。
ぼんやりと、廊下に出てから、
(あの小僧か………)
小司馬は、声の主に思い当たった。
あまり喋りはしないものの、ことばの通じる自分といるのが、安心できるのか、いつもはその辺に犬ッコロのようにうずくまっているというのに、そういえば、姿がなかった。
(バカが。うろうろして妖魔にでも出くわしたか)
とりあえず、昇紘からの預かりものである。擦り傷や切り傷ていどならともかく、それ以上の怪我をさせるわけにもゆくまいと、悲鳴のしたほうを思い返しながら、小司馬は足を進めた。
そうして―――――
庭の四阿(あずまや)にいる小僧を、小司馬は見つけたのだ。
(まったく。手間をかけさせやがる)
酔いの眠りを妨げられたのだ。ひとつふたつ蹴りでもいれてやらなければ気がすまない。
荒々しく四阿に近づいた小司馬の足が、ふと、止まる。
小僧はひとりではなかった。
朱塗りの柱に背もたれるように蹲り震えている小僧のすぐ側に、小司馬は、昇紘の姿を認めた。
昇紘にまで手間をかけさせては、こちらが罰せられる可能性が大だった。慌てた小司馬が近づく気配を、昇紘は感じたらしい。ちらりと小司馬を振り返り、その意志の強そうに引き結ばれた口角を、歪めてみせたのだ。
(なにを?)
立ち止まった小司馬の目の前で、昇紘は浅野の肩を掴み、無理矢理立ち上がらせた。そうして、藻掻く浅野を柱に押さえつけ、そのまま、くちびるを合わせたのだ。
その後のことを、小司馬は知らない。
しかし、翌日の小僧の様子から、推測は容易だった。


偶然見てしまった光景を思い出し、小司馬の酷薄そうに細い双眸が眇められ、浅野の全身を舐めずるように這いずった。
きっちりと合わせている襟元をくつろげれば、おそらくはそうと判る痣がいくつも散っていることだろう。
里家の長老を捕らえたあの日、里家に養われていたガキを撃ったことに、小僧は衝撃を受けていた。
それはもう。ガキひとり傷つけたくらいであんなで、どうやって景王を助けるつもりなのかね――――――と、嘲笑わずにはいられないくらいのうろたえようだった。
あの時の小僧のぶざまさを思い返しながら、小司馬は、干した杯に新たに酒をそそいで、椅子から立ち上がった。
「呑め」
銃を弄っている手に無理矢理握らせる。
のろのろと、小僧の顔が自分に向けられるのを、苛々と見下ろし、
「呑めよ」
もう一度、繰り返す。
「い、や。……オレは…………」
ぼそりとつぶやいたきり、浅野の視線が、それだけが自分の支えだと言わんばかりに、銃に逸れてゆく。
何も見ていない。あまりにあからさまな態度に、小司馬の喉元に固く不快なものが生じた。
パンッ!
カッとなった小司馬の平手が、浅野の頬をしたたかに打ち据える。
パシッ!
パシン!
二度三度と浅野の頬で爆ぜる平手打ちの音が、静かな堂室に響いた。
「な、なにをっ! やめっ」
自分に向けられた褐色の瞳に怯惰を見て取り、小司馬の口角が、満足げな笑みに釣りあがってゆく。
突然の暴力に、浅野の、くちびるは切れて血をにじませ、不健康そうな青白い頬が、小司馬に張られたせいで、赤く染まっている。
それを満足そうに見下ろし、杯に再びそそいだ酒を浅野の口元にあてがうや、ゆっくりと、
「呑むんだ」
強制する。
浅野の、赤く潤んだ目元に、小司馬の眇められたまなざしが、吸い寄せられ、あることを思いつかせる。
杯を受け取ろうと伸ばされた、力なく震える手をさえぎり、
「飲ませてやる」
言いのけざま、己で呷り、小司馬はその薄いくちびるを、落とす。
くちびるのあわいから無理矢理そそぎこまれる酒が、傷にでも染みるのだろう。藻掻く浅野のくちびるは、鉄の味がするものの、小司馬には思いのほか甘く感じられた。



おわり



start from 17:34 2004/09/25
to end 21:15 2004/09/25
あとがき
 これは、う〜ん。マイナーすぎると、自信はあります。
 最初、浅野君、邪魔としか思えなかったんです。アニメのオリキャラだし。性格が、うざくてxx それが、何回か見返すたびに、なんか、こう、萌えのツボを、押してくれて………。
 こんなん書いてもなぁ――と、踏ん切りがつかなかったのですが、ビバ! マイナーCP祭り! 日の目を見ることができました。
 ただし、需要はなさそうですね。
 あくまで、アニメの方向でおねがいします。しかも、記憶を頼りに書いてますので、微妙に間違いがあるとは思われます。
 こんなのでも、少しでも楽しんでいただけるといいのですが。
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