陵 辱
最初に違和感があった。
―――なんか違う。
そう思った。
思ったことで、意識がよりクリアに目覚めかけたんだろう。
こみあげるような痛みの波にうめいた。
腹が痛い。
庇おうとして、今度こそ、オレははっきりと目が覚めた。
吐きそうな痛みと、つぷつぷとさざなみたつような快感とまでいきかねているような感触よりもしたたかにオレに襲いかかってきたのは、動けないっていう事実だった。
何度も目をしばたいて、それでも白む視界の先にある現実に、オレの頭が思考を拒否しかけた。
見たことがあるようなないような紐で一括りにされたオレの手首が縛りつけられてるのは、記憶にないベッドのヘッド飾りだった。
上を見れば、かすむ視界に悪趣味にもほどがある鏡張りの天井が映ってた。
そうして。
そこに映ってる光景から目を背けたのは、本能的な羞恥のためだろうか。
なぜって。
オレは、全裸で、誰かに襲われてる最中だったからだ。
誰か。
誰か――だ。
あいつよりも、薄い背中が脳裏に灼きついていた。
なんであいつじゃないんだ。
オレを押し倒すような物好きなんか、あいつしかいないじゃないか。
と。
―――小司馬に押し倒されたらどうよ。
いつか佐々木に言われた台詞が頭を過ぎった。
同時によみがえったのは、塾の空き教室の窓際でオレに詰め寄ってきた小司馬の姿だった。
「ヒッ」
途端、オレの口からほとばしったのは、悲鳴だった。
違和感をともないつづけていた快感めいたものが、ふいに止まる。
怖気ながらも視線をやったオレは、オレの下半身を抱えてオレを見上げている小司馬を認めたのだ。
オレを咥えている小司馬の口が、笑いの形をつくった。
「いやだっ」
再度の挑発に小司馬がかかる寸前、オレの口は、拒絶を吐き捨てることが出来ていた。
けど。
そんなことで、小司馬の行為がとまるはずなどない。
わかってはいるけど。
からだの中心から、こみあげるのは、間違いようも無い快感だった。
声を堪えようと、くちびるを噛みしめる。
顔をからだを、よじらせる。
どんなに暴れても遅まきすぎて、ただ高められる快感の渦に投げ込まれていた。
それでも。
違和感がつきまとう。
それが、ストッパーになってるのだろう。
「くぅっ」
小司馬の行為が苛立たしげなものに変わった。
遂精できないままのオレを吐き出して、からだを乗り上げてきた。
「いつもこんなに鈍いのか? それとも、溜まってないのか」
オレを見下ろし耳元でささやく。ついでとばかりに付け根に吸いついてくる。時折きつく痕をつけている気配に、からだが引き攣れる。
そうして、小司馬が、そこにくちびるを寄せた。
たったそれだけだったんだ。
なのに。
ぞくりと電流が駆け抜けた。
全身が一気に熱くなり、大きくうち震える。
「こんなとこが弱いのか」
女みたいだな。
くつくつと笑いながら、小司馬がうそぶく。
そこを口と手とで弄りまわす。
どうしようもなく弱い箇所を責められて、全身が震え、しなる。
声を噛むのがやっとだった。
と、片方の手が、腰に伸びた。
「や、めろっ」
膝で蹴り上げようとしたのが失敗だった。
難なく小司馬の手が、オレの尻を捉えた。
揉みしだかれる感覚が腰骨を舐め上げるようにして煽る。
「いやだぁ」
頭を振るたび、ぱさぱさと目にかかる髪がうざい。
こぼれ落ちる涙が、くやしい。
こんな………。
あいつじゃないやつに煽られて、イってしまうのか。
そんなの。
それこそ、淫乱じゃないか。
―――私だけでは満足できないのか。
そう言われてさんざんな目に合わされたのは、そんな前のことじゃない。
オレは………。
オレはっ。
「淫乱なんかじゃないっ」
必死のことばも、
「そうか?」
からかうような小司馬の声に、打ち消された。
「こんなになってるぞ」
やっぱり、意識があるほうが反応はいいな。
からだの熱は上がる一方だ。
ぬるりとした感触に、見るまでもない。
追い詰められる。
まだどこか鈍いままだった快感の波が、一枚膜を剥ぎ取られたかのようで。
鮮明なものへと変化していた。
脳が、灼熱に白く蒸発する。
そんな錯覚に、オレは、自分が小司馬にイかされたことを理解した。
一枚、また一枚と、小司馬は容赦なくオレから何かを奪い去ってゆく。
そのたびに、からだが鳥肌立つほどに敏感になって、オレは、ただ痙攣を繰り返す。
あいつほど丁寧じゃない荒々しい愛撫に、オレは、どうにかなってしまいそうだった。
最後にオレの脳の中に残されていた理性めいたものが、必死になって、抵抗しろと叫びつづけている。
あいつ以外に最後までヤられたらおしまいだぞと、悲鳴のように叫ぶ。
なにがおしまいなのかわからない。
けど。
そこが掻きまわされるたびに、脳までもが掻きまわされるかのようで。
あいつに触られるのさえ嫌でならないあそこを探り当てた小司馬に執拗に嬲られて、オレは、泣き喚く。
嫌だ。
やめてくれ。
たのむから。
けど。
あいつですら聞き入れてくれないオレの願いなんか、どれだけ切実なものでも、小司馬にとっちゃただの無粋なピロートークにすぎないんだろう。
「そろそろよさそうか」
腰を抱えあげられて、シーツを掴み、力任せに引っ張る。
そうして。
シーツの裂ける音が、オレの悲鳴よりも大きく響いた。
そんな気がした。
おわり
start 22:32 2009 05 30
up 20:10 2009 05 31
いいわけ
2年ぶりの『自業自得』ですが。救出に至りませんでした。ほぼ一日かけたのに………xx その上、時間軸が少々変わってきます。思いつきで書いてるからですね。反省。
郁也クン、ごめん。
めずらしく魚里は、このシーンを書く気満々だったのです。ですが、最初のタイトルは『救出』。はい。助け出される予定だったのですね。でも、断念。久しぶりなので、頭が、動きません。しかし、つくずく、この手のシーン、苦手だな。寸止めがやっぱよかったかなぁ。
痛いシーンですが少しでも楽しんでいただけると、うれしいです。
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