試験勉強




「で、あいつって、お前の恋人なわけよな」
 唐突に佐々木にそんなことを言われて、オレは、思わず飲んでたものを噴出しそうになった。もっとも、寸でで堪えたけどな。
 ここはオレの部屋だ。さっき携帯が鳴って、昇紘からでさ、オレは、明日っから試験だって応えて切ったんだ。それで、まぁ、佐々木が持ってきたグラビア写真に目を戻してたら――試験勉強はよ? ――、冒頭の台詞になったってわけだ。
 ほっ。セーフだ。佐々木お気にの写真集にジュースなんか飛ばしたら、なに言われるやら。水着姿のきれいなおねーさんが、にっこり笑ってこっちを見上げてる。女豹のポーズとかって、佐々木一押しのショットだったりするからな。いや、まじ、色っぽいしさ。
 口の中のものを飲み下して、けど、やっぱ少し気管に入ったんだろう、けほけほと咽ながら、オレは、佐々木を見返した。
「あ、いつ?」
 とりあえず、とぼけてみる。
「昇紘っつったか? えらそーな男。さっきの携帯、あいつだろ」
 そりゃあ、佐々木は、オレと昇紘との関係を知ってるわけだけどさ。
「諸悪の根源のくせに、いまさらかよ」
 いや、違う。そこが問題じゃなくって、
「誰がっだよっ」
 そう。こっちのが問題だ。
「えっ、違うのか」
 なんか、意外っつーかんじで目を丸くしてるから、
「オレ、ゲイじゃないんだよな」
 なんでいまさらこんなこと佐々木に言ってんだか。内心ため息をつきたい気分で、オレは、ゆっくりと口にしたんだ。
「ああ、井上が持ってる本によくある台詞か? ほら、好きになったのがたまたま同性だったって、ヤツ」
 んなことしれっとのたまうもんだから、オレ、思わず本の上になつきそうになっちまった。
「佐々木ぃ、そんなに、おまえ、おねーさんにオレの口の中のもん飛ばさせたいのか」
 久しぶりに作ったシフォンケーキを飲み込んで、オレは、佐々木をにらんだ。
「ああっ、返せよっ」
 真っ青になって、ひったくられた。
 ティッシュを引っ張り出して、ページを拭ってる佐々木を見ながら、自業自得だよななんて、オレは、思ってる。少しぐらい飛ばしてもよかったかも――なんて考えてるのは、内緒だ。
 まったく。井上も井上だ。あんなヤツだとは知らなんだ。いわゆる腐女子系の本を、なんだって、佐々木に読ませたんだか。
 佐々木に、
『読むか?』
って、見せられたんめくって、
『こんなん読めるかっ』
っつったオレに、佐々木のヤツ、
『いや、男同士だと思うから駄目なんだって。男女だと思えば、へーきよ』
なんつってさ。いや、常々、リベラルなやつとは、感心してたけど。そこまでとは………。そんなオレに、
『又貸ししてやる』
って無理やり一冊押し付けてさ、
『いらん』
つって、そのまま井上に渡したら、
『読め』
っつって、井上がまた、読まないと怒るんだぜ。ふつーこんなん、男に読まさないと思うんだけどなぁ。で、まぁ、井上にしてみたら、オレのこと男と思っちゃいないんだろうけど。じゃ、佐々木はどうなんだ? あれ? ともあれ、しぶしぶ読んだらさ、けっこうえぐい絡みとかあって、どういう反応しろっつーのよと、オレはけっこう本気で悩んだんだけど。とりあえず斜め読みで読んでしまって――読んだ自分を褒めてやりたいよ――、
『ん』
と、返したら、
『勉強になった?』
って、にっこり。
 なんの勉強なんだーって、突っ込んだオレに、
『ん? うっふっふ』
って、楽しそうに笑いやがった。井上ってば、まぁあのとき、昇紘のヤツと意気投合してたからなぁ。
 つらつらと思い返してたら、
「で、恋人じゃないヤツと、ヤってんのか、おまえ」
 いきなり突っ込んできやがった。
 しかも、いきなり、核心だ。
 オレが、考えないよーに考えないよーにって、してる部分なんだよな。
 陽子姉にばれて、自分で自分の首を絞めてからってもの、昇紘がうちに来るようになってさ。そんでもって、時々佐々木と鉢合わせたりするようになってたりするから、オレとしても佐々木がどう思ってんだろうって、気になってはいたんだけどさ。
「う〜〜〜〜」
 唸ってると、
「セフレとかってあるっちゃあるんだろーけどさぁ。現実、同性だとさぁ………好きな相手とじゃないと、気持ち悪いだけって思うんだけどさ」
 けろりと言いやがった。けっこうまともな感覚で痛いとこついてくるよななんて、感心してる場合じゃなくってさ、
「おまえ、井上の影響受けすぎ」
「いや、だってさ、オレにしてみたら、好きでもなんでもないその辺のやつに触られたりしたら、吐くぜ。お前だってさ、ほら、たとえば、小司馬なんかに押し倒されそうになったらさ………」
 なんつーこと。しかも、自分は触られるだけで、オレは、押し倒されるんかよ。しかも、小司馬限定?
「やめれ」
 小司馬のことなんか忘れてたっつーのに、思い出しちまったじゃんか。
 ぽつぽつと鳥肌が立ってくる。
「きもいんだろ」
「きもいさ」
「じゃさ、あいつのことは?」
 そういうけどさ、現実で押し倒されてる身にしてみたら、想像するだけでもまずいことになりそうじゃん。
「………………」
 真っ赤になって黙ってると、
「やっぱ、おまえってば、あいつのこと好きだったりするんだ」
 なんだ、たんに照れてただけかよ。
 そんな風にひとりで納得しやがってさ。
「なんかすっきり〜! さ、勉強しようぜ、べんきょ」
 数学の教科書なんか引っ張り出すんだぜ。


 結局、試験勉強にはならない一日でさ、次の日の試験は、ぼろぼろっつー結果になったんだった。

 佐々木、マジ、恨んでいいかぁ??

 
おわり

start 6:45 2007/05/22
up 8:15 2007/05/22
いいわけ
たまには明るめにって、相変わらず、不憫ですかね。不憫王の面目躍如xx
井上さんと佐々木君を出してみました。二人の関係はなんだろな。
会話だけですが、少しでも楽しんでいただけると、うれしいです。



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