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「お、ハボック。お前なんか良いもんつけてんな」 応接室のソファで向かい合った彼。 不意に伸ばされた腕を反射的に振り払っていた。 目の前に、驚きに見開かれた瞳。 「あ・・俺、すみません」 「いや・・俺もいきなり悪かった」 そんなやり取りの中でも、彼の視線は、首にやられた俺の手を。 正確に言えば、その手の中にある物を凝視している。 肌が粟立つ。 「そのチョーカー、恋人からか?」 揶揄するように軽く問う。 「・・・いえ」 ただ、それは上辺だけのものだとすぐに知れる。 この男、ヒューズと過ごす時に、度々感じる威圧感。 例えるならば、猛獣に狙われた小動物のような。 追いつめられ、限界まで走っても逃げられずに、最後には息の根まで止められてしまいそうな恐怖感。 「嘘だ」 「・・・中佐?」 再び手が伸ばされる。 逃げたい。 しかし、今度はその手を振り払うこともできない。 彼の目が、彼の言葉が、俺を金縛りにあったように動けなくさせた。 持ってきた紅茶も既に冷め切ってしまった。 そのカップを素通りして、その手は俺の首へと伸ばされている。 ソファから腰を上げて、座ったまま動けないでいる俺の前に立つと、肘掛けに手を置いて、ゆっくりと覆い被さってくる。 耳朶に生暖かい吐息を感じた。 頬にあたった髭と共に、それは彼との異常な近さを意識させる。 「それが誰からのプレゼントで、ソイツがどんなことを考えてお前にそれを渡したかも、俺にはわかる」 心臓が早鐘をうつ。 目は見開いたまま、彼の肩越しに壁を映す。 訳の分からないこの状況。 コロンの匂いに、眩暈に似た感覚を覚えた。 いっそこのまま意識を手放してしまえたら楽なのに・・・ 彼の手が俺の首に触れた瞬間だった。 「それはすごいな、ヒューズ」 息をするのも難しいような緊張感の中。 突然に響いた低い声に、張り裂けた風船のように切迫した空気が途切れた。 呼ばれた男は上体を起こすが、相変わらず肘掛けに手を置いたままなので、俺との距離はさして変わらない。 「ロイ・・」 思わず漏れてしまった声に、小さく笑みを返してくれた。 それだけで、四肢の強張りが薄れていく。 「ヒューズ、私の考えがわかるだって?」 先程までとは違う種類の緊張が場に漂う。 「あぁ、わかるね。簡単過ぎる程だぜ?」 苦笑じみた笑みを浮かべて、その足は出入り口であるドアへと向いた。 2人がすれ違うとき、ヒューズがその長身を僅かにかがめて何かを伝えたのがわかった。 パタンと静かに音がして、呆気なく静寂がおとずれる。 「ロイ・・あ、ロイ、ッ・・」 キツク抱きしめられたかと思えば、息をも奪うようなキス。 「んっ・・ぅ・・ふ・・」 「ジャン」 熱いキスの合間に、首にやられた手が、そこにある証を探っている。 あまり長さに余裕のないものなので、キスと相俟って圧迫感と息苦しさを感じる。 それすら彼から与えられるものだと思えば心地よい。 同じように覆い被さられても、この違いは何だ? この安心感。 真綿でくるまれているかのような安堵感。 それと相反するかのような、首にかかる所有の印。 彼に、支配されているという事実。 「飼い犬には綱が必要だろう?・・・首輪だけじゃ足りてないぜ」 ヒューズが去り際に、俺を揶揄して残した言葉。 こいつが俺の考えを理解していると言ったのは本当だったのだと思った。 もしかしたら、俺ですら知り得ない俺自身の感情すら、こいつは知っているのかもしれない。 わかっている、わかっているとも。 こんなもので彼を繋いでおけるわけがないと。 それでも彼はこの腕の中にいる。
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あとがき
『STAND☆UP』の管理人、北川海さまより頂きました。
以前に贈らせていただいた、相互記念のお返しです。
天然受けな少尉が、とっても可愛いですね。大佐と中佐に挟まれて、自分の感情にも覚束ないような、そんな稚けない少尉が、ツボです。
独占欲がこれ以上ないくらいのロイさんが贈ったチョーカーが、軍服の襟から見えてたりしたら、意味ありそうで、視線がそこに行っちゃいますよね。
中佐の、複雑な感情と、行動が、かっこいいです。
北川さま、お忙しい中、素敵なお話をいただけて、とっても嬉しいです。
これからもよろしくお願いいたします。