Labylinth-W |
私にいつまでも隠し通せると思うなよ? 私を誰だと思っている? 焔の錬金術師、ロイ・マスタング。 お前の、恋人だ。 「最近、ハボック少尉の様子はどうかね?」 「普段と何ら変わりないように思えますが、何か?」 「いや、それならばいい」 ホークアイ中尉に尋ねると彼女は事も無げにそう答える。 そうだろう、自分もそう思う。 何も変わらない。 普段通り。 ………不自然なほどに。 自然すぎるのだ。 何もおかしな所などない。 それでいいはずなのだ。 だけど、何かがおかしい。 そう、彼の様子がおかしくなったのは傷の男の捜索作業中だった。 現場で倒れたと聞いたときは血が凍るかと思った。 体が一気に寒くなり、足元が揺らいだ。 いて当然の存在を、もしかしたら失うかもしれないと言う恐怖。 医務室に駆けつけると、明らかに彼の様子はおかしかった。 何かに怯えているような、そんな素振り。 何があったかは何も言わず、ただ抱きしめてくれと。 しばらく寝込み、仕事にも出てこない。 部屋を尋ねたときの様子は誰の目にも明らかにおかしかった。 青く褪めた顔色、震える体。 何があったと尋ねても、言えません、ごめんなさいの繰り返し。 そして現れたロス少尉。 ………………お前が何を隠したがっているのか、うっすらとわかってきたよ。 お前は隠したがっているのだろう。 だけど、私をなめるなよ。 お前の、恋人を見くびるな。 ……………………愛しているんだ。 包帯の巻かれた手を見咎めても「転んだ」とはぐらかされる。 目を合わせない。 近くに寄らない。 それでいて話の輪には入る。 答えは簡単だ。 私と二人になりたくないのだ。 だけどジャン、きっとお前は気付いていない。 すれ違った後の私の背中に縋る様な視線。 意識していないのだろう、自分でも気付かずにお前は私を追っている。 私を求めている。 私はまだお前に必要とされている。 ならば、逃がしはしない。 離しはしない。 決して!! 無言のままに彼の部屋に入る。 ノックも何もなしに。 彼はベッドに倒れこむようにうつぶせている。 その背は以前よりも細く頼りなく見える。 私の気配を感じ、彼がのろのろと視線を上げる。 ……私は何も言わずに、ただ彼を見つめる。 「……」 こちらを見る彼の視線の色のなさに心が揺れる。 感情のない…いや、感情を押し殺した暗く静かな瞳。 私はこの色を知っている。 …これは、死を覚悟した者の瞳の色だ。 何が君をそこまで追い込んだ? ………私なのか? だがそれでも逃がさない、お前はもう、私のモノなのだから。 「ジャン」 「…………」 いつも通りにそう呼んで、口元に笑みを浮かべて彼に近づき抱きしめた。 彼はそれを視線を落としたまま受け入れる。 だが、そのまま動かない私に不思議そうな声を上げる。 「……………エンヴィー?」 「………………………………エンヴィー、覚えたぞ、その名前」 「………………………………?!」 「二度と忘れまい、お前を傷つけたその名前を」 「ロ、イ…………!!!!」 途端もがき逃げ出そうとする体をきつく抱きしめる。 痛いほどにきつく、きつく。 暴れる体を押さえつけ、その耳元でささやく。 「ジャン、私が見えるか?お前を愛しているこの男が見えるか?」 「離して……離して、下さい………!」 「私を見ろジャン!!その目で、しっかりと!!他の何者でもない、ロイ・マスタングというこの私を!!」 「…………ロイ…………!!」 抵抗が、やんだ。 色のない瞳に私が映る。 その瞳に段々と色が戻り、やがて閉じられる。 再び開かれたその瞳は涙に濡れていて、私は抱きしめる腕はそのままに力を少し緩める。 「本当に、ロイなんですか……?」 「当たり前だ、この世界にロイ・マスタングは一人しかいない。お前を愛する男など、私一人で十分だ」 「ロイ、ロイ…………会いたかったんだ、あんたに会いたくて会いたくて!!!!」 「ジャン…………」 幼子のようにしがみつかれ、私はその震える背をそっと撫でる。 微かに聞こえる嗚咽。 私は彼の頭を抱えたまま、口を開く。 「お前一人に全てを背負わせはしない、私にも半分持たせてくれ」 「…………でも、俺は…………俺はあんたを…………」 「なぁジャン、お前は私のものだ」 「……はい、俺は、貴方のものです」 「等価交換は、基本だとは思わないか?」 「……………………はい?」 涙を浮かべたまま、きょとんとした表情。 泣くことも忘れこちらを見つめる彼に、私はにやりと笑ってみせる。 「私はお前を手に入れた、等価を支払おう」 「な、にを言って………」 「………そうだな…………この私ではどうだろう?」 「っな!!!」 「おや、不足か?困ったな、存外欲張りだなお前は…」 何かを言おうとする彼の口を無理矢理に封じる。 久しぶりに触れた彼の唇は甘い。 そして、その瞳を見つめながら私は言う。 「お前を手に入れるためならば、私の全てをお前に捧げよう」 「……………………ロイ」 「お前は私のものだ、そして私はお前のものだ。お前が望むのならばこの命も意のままに」 「…………」 ベッドに彼を座らせ、そっと彼の前に跪く。 そしてその左手を取り、薬指に口付けた。 「お前が死を選ぶならば私も死のう。お前が地獄に落ちるならば……私も、共に」 「…………………………アンタは、馬鹿ですね」 「そんな馬鹿に惚れているのは誰だ?」 「えぇ、俺は大馬鹿です…………アンタがそういう人だって事を、忘れてた」 そう言って彼は……ジャンは微笑んだ。 それは、本当に久しぶりに見る、心からの笑みだった。 「一緒に、堕ちましょうか」 「そうだな、お前とならば悪くない」 「…………………離さないでくださいよ?」 「お前が嫌がってももう二度と離さないさ」 さぁ、ゲームの幕を下ろしに行こうか? 勝者は一人。 それは私だ。 覚悟をしてもらおうか……………………エンヴィー。 up 13:15 2003/12/05 |
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あとがき
”Lucky Strike”の阿部スミヤさまよりいただきました♪
6666番というきり番を踏んでのリクエスト内容は、エンハボ前提のロイハボでした。
ドキドキするような素敵なお話をありがとうございました♪
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