もう一度だけ

 

 

 

 

心臓は、酸素を充分にもつ血液を、全身に送り出す臓器のひとつ。

二酸化炭素で汚れた血液を、内に取り込み肺へ送り出す臓器のひとつ。

 

その動きに自覚はない。

自分の意志とは関係なしに常に動く。

 

 

 

けれど、制御できたら。

せめて彼の前だけでも、自分の意志で制御できたら。

 

 

こんなにも煩く脈打つ音を、聞かなくて済むのに。

 

 

 

 

朝  挨拶するときの微笑と、柔らかい声。

昼  時折見せる懍とした表情と、鋭く響く声。

 

脈打つたびに、この音は他人にも聞こえてるんじゃないかと、更に煩く響いてくる。

 

 

夜  幾らでも情欲を煽る顔と、甘く痺れさせる声。 

 

何気ない顔でも、普段の声でも

壊れるんじゃないかと心配になるほど跳ね上がるのに。

跳ね上げないために、見たくないけれど。 聞きたくないけれど。

もっと見たい もっと聞きたい自分が、奥底にいる。

 

 

離したくないから  離したくないのなら。

失いたくないから  失いたくないのなら。

そんな顔と声をしないで。 

 

 

酸素を充分にもつ血液を、全身に送り出す臓器のひとつが。

二酸化炭素で汚れた血液を、内に取り込み肺へ送り出す臓器のひとつが。

 

 

心臓が壊れる。

 

 

これ以上狂わせないで。

 

壊れる前に壊してしまうから。

壊したくないのに。 失いたくないのに。

 

煩く耳に響いても

彼の前でずっと、脈打っていたいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛みは一瞬だった。

痛みよりも、熱が身体を包んだ。

 

撃たれた、と思ったのは

左胸からはじけた、赤い赤い血を見てからだった。

 

 

 

 

 

 

肺に血があふれる。

 

壊れた。

 

酸素を充分にもつ血液を、全身に送り出す臓器のひとつ。

二酸化炭素で汚れた血液を、内に取り込み肺へ送り出す臓器のひとつ。

 

心臓が。

 

 

 

 

 

 

 

 

心音が遠ざかる

 

 

 

・・・・・・頼む

せめてもう一度

 

 

 

彼の前で

 

彼のせいで

 

彼のために

 

 

 

もう一度だけ 跳ね上がるほどの脈を

 

 

 

END
あとがき
 相互記念に、『紫煙』を差し上げたら、頂いちゃいました♪ "はすの葉っぱ"のぴょんきちさまからです。
 切ないですよね。
 ハボさんの大佐に対する感情が、最期の最期まで伝わってきます。この後、助かってくれればいいのに……。願わずにはいられません。でも、死にネタなんですね。クスン。
 とっても切ないお話を、ありがとうございました。
 ぴょんきちさまのサイト"はすの葉っぱ"にはこちらからどうぞ。
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