呪 文 |
あれがなんだったのか、今もって、さっぱりわからない。 攫われるようにして高遠のヨーロッパ公演に引っ張って行かれた時のことだ。 ヨーロッパでの高遠のマネージャーをしているハーベィという男に、オレは、目の敵にされていた。 まぁ、気分はわからないでもないのだが。 なぜって、高遠のヤツは、イギリスに着いた最初の日、オレのことを『恋人』だと、スタッフ全員の前でのたまってくれたのだ。 ホテル側にあらかじめ言っておいたのだろう、立食スタイルのパーティの席上で、スタッフにマネージャー、彼らの慰労会を兼ねたような食事の席で、こともあろうにヤツは、オレのことをそんな風に紹介したのだった。 あの一瞬、その場に居合わせた二十一人のスタッフたちの目の色が変わったのを、オレは確かに見てとった。 それは、せっかくのご馳走が不味くなるような、居たたまれない視線だった。 そう。 彼らは、あきらかにオレのことを高遠には相応しくないと、判断したのだ。 ムッとなった。 なんだって、オレがそんな評価を受けなければならないんだろう。 そりゃあ、世界的にもトップクラスのマジシャンと日本の高校生。しかも、男な、オレ。 不釣合いだと言いたいのは、わかる。オレだって、そう思うさ。 けど、声を大にして言いたい。 オレは、決して、高遠のことを恋人として好きなわけじゃない。 友人としてなら、オレだってヤツのことは好きだ。けど、キスやそれ以上をされるとなると、犯罪だと喚きたくなる。実際は、それどころじゃなく、悲しいことに感じて酔わされて、いくとこまでいっちまってっけどな。 不本意だが、えんこーとか、セックスフレンドとか、そういうことばが一番しっくりくるのかもしれない。もちろん、金なんてもらってないが、いろんなところに連れてってくれるし、なんだって奢りだったりするので、微妙なような。 あー、よくわからん。 ヤツとのことを考え出すと、いつだって煮詰まって、ウニになっちまう。 え〜っと、とにかく、最初のうち、ヨーロッパ公演中、高遠のスタッフのオレに対する評価はどツボだったということ! ◇ ◇ ◆ ◇ ◇『あの時は、ミスター殺気だってたのよ。ポーカーフェイスはいつもとおんなじなんだけど、目がね、こう、穏やかじゃなくって。えと、何とかってブッダの眷族みたいに、底光りしててね、鬼気迫るってこういうことだったのねって。とーっても怖かったのよ』 と、”あの時”以降なんとなく仲よくなった金髪美人のパティが、ぽつんと漏らしたことばから推測するに、 それが変化するきっかけになったのは、オレがどうにかイギリスでのホテル暮らしに慣れた、三日目のできごとだったのかもしれない。 高遠は、オレのことを安眠のお呪いとか事故防止のお守りとか言っていたが、ご利益があったのかどうか、オレは知らない。 ショウの一等席がオレのためにいつも用意されていたが、初日に行ってからは毎日行こうとは思わなかった。ショウにかぎっていえば滅茶苦茶楽しいし、いつだって見ていたいと思う。けれど、いかんせん、スタッフの視線が痛くて、ホテルの部屋に残っているほうが気楽なのだ。 外国ということもあったから、オレが外出するのは、ホテルとはほんの目と鼻の先の公園周辺くらいだった。 宿題なんかする気はさらさらなかったしさ。 で、”あの時”も、オレは公園のベンチにだらしなく懐いて、散歩してる人たちを見てたんだ。ジョギングしてる、井戸端会議してる、犬を連れた散歩とか、サッカーボールを蹴ってるとか。ランチ・バスケットを広げてる人とかもいて、わらわらと寄って来る鳥にパン屑を投げてたりしてる。 まぁ、結構見てるだけでも飽きなかったりするんだなこれが。 そんなわけで気がついたら昼だった。いくらなんでももう少し建設的な時間潰ししてもいいかもとか思いつつ、近所の店で買ったハンバーガーにかぶりついてた。で、やっぱり寄って来た鳥にパン屑をやってたんだが、ちょっと前から妙に気になってたまんないやつがいたんだ。グラマーなおねーさまとか、可愛い女の子じゃなくて、なんつーか、こう、得体の知れない、男。 山高帽とか中折れ帽とか言うのだろうか、夏場だというのにフェルト地の帽子を目深にかぶって、あまつさえフロックコートなんか着てる。それがまた、ご丁寧なことに黒ずくめだったりするもんだから、見てるこっちまで暑っ苦しくなってくる。まあ、こっちの人間ってあんまり季節感とか気にしないみたいだけどな。だからだろうか、オレ以外にはその男を見てるやつなんかいなかった。 その男は中腰になって、芝生の上を這いずったり、移動したりしてる。 どうも、なにかを探してるらしいんだ。やっぱり、手伝ったほうがいいんだろうなぁ………。 ぐずぐず迷ってたんだけど、 「探し物してるんだったら、手伝うよ。何探してんの?」 思い出してみたら、この時、オレってば日本語で話しかけたような気がする。けど、オレの声に動きを止めた男は、びっくりしたような顔でオレを見上げ、そうして、二回ゆっくりとまばたきをした。そのまばたきに、人間じゃない何か別の生き物みたいな感じを受けて、オレは声をかけたのを後悔した。 金色の瞳がオレを見ていた。 高遠の瞳も、琥珀色っぽいような金色っぽいような感じだが、この妙にのっぺりした白い顔をしてる男のは、ほんと、どろんと融けた固まる寸前の金みたいな色をしてるんだ。 オレがこれ以上ないってくらい後悔して、背中を冷や汗が流れ落ちたころになって、 「おまえ、私が見えるのか」 ゆっくりと、薄いくちびるをパクパクと動かして、男がそう言った。日本語でも、英語でもなかった。けれど、なぜなのか、オレはそいつの言葉がわかったのだ。 「見えるのかって、見えてっけど?」 「ふん……」 声かけるんじゃなかったって、思ったね。 頭の天辺から足の先まで、じろじろ見る金の目。 「なら、これくらいの、金の冠を探してくれ。落としたんだ」 「わーった」 この広い公園の中から人差し指の先くらいの大きさの人形の冠を見つけんのかと思ったが、今更後には引けない。 さっさと見つけちまえと覚悟して、オレは、おもむろに芝生の上に四つん這いになった。 どれくらいそうして探してただろう。いいかげん疲れてきたから、 「ほんっとにここに落としたのか?」 「どこに落としたかわかっていれば、苦労はせん」 思わずひきつったオレの顔を見上げて、 「この公園内だというのは、確かだがな」 ニヤリとそうつけくわえた男の顔は、意地の悪さが透けて見えるようなものだった。 へたんと芝生の上に座り込んだオレは、気が遠くなりそうだった。 ハァ………と溜め息をついて芝生を見渡した時、一羽のカラスが下りてきたと思えば、なにか光るものを咥えてもう一度飛び去った。 「!!」 いや、もう、これしかないだろうと思ったね。 というか、芝生の上を這いずるのが面倒になったっていうのもある。 「なぁ、なんか、光るもん持ってない?」 怪訝そうな顔でポケットから指輪を取り出した男からそれを取り、ポイッと放った。 「何をする!」 食ってかかってきた男に、 「まぁまぁ……こんだけ探して見つからないんだから、一か八か賭けてみんのも手でしょーが」 そうこうしているうちに、たぶんさっきと同じカラスがやってきて、指輪を咥えて飛び去る。 「ほら、ヤツを追っかけるんだって」 背中をどついた。 何度か繁った木のせいで見失いかけたものの、やっとカラスの巣を見つけ出した。 荒い息がどうにかおさまるのを待って、 「た、多分あんたの探してるのは、あ、あそこにあると思う」 それだけ言うのが精一杯だった。 「見てきてくれ」 「へ?」 「確かめてきてくれ」 有無を言わせない口調だった。 オレだって、木登りは得手じゃないんだよ……と、ぶちぶちつぶやきながら、どうにかこうにか件の巣にたどり着き、中を覗き込んだ。 まぁ、あるわあるわ。 ガラスやジュースのビンの蓋、ビー玉みたいなのや、アクセサリー。ピアスの片方、イヤリングの片方。指輪やなんかわからないチェーンの千切れたのとか。その上に、さっきオレが投げた指輪がチョンとのっていた。それを取ってなおもカラスの宝をかき回すと、やけに細かい細工の、一見して指輪としか見えないような凝った王冠らしきものが出てきた。他にはそれらしいものも見あたらない。 それもポケットに収めて、やっとのことで木を降りた。 「とーちゃくー」 ぱっと両手を上に挙げて、内心で十点零などと独り語ちてると、 「見つかったか」 「あったぜ、ほら」 男の差し出した掌にポケットから取り出した二つをのせようとした時だ。 ぎゃぁっ! カラスが襲い掛かってきた。 カラスの翼が、男の帽子を跳ね飛ばす。 男が受け取り損ねた二つを咄嗟に拾い上げて、オレはその場に硬直した。 変だ変だとは思っていた。 のっぺりとした白い顔。 薄い口。 金色の目。 そうして、帽子の下には、髪の毛一本もなかった。いや、だから硬直したわけじゃない。なぜなら、帽子が跳ね飛ばされて芝生の上に転がるかどうかというほんのわずかな瞬間に、男は見る見るしぼんでいったんだ。 カラスを避けてからだをできるだけ小さくしたんじゃない。 ほんっとうに、膨らんだ風船が縮んでくみたいな感じで、細く長くなっていったんだ。 で、最終的に、帽子とコートそれにズボンや靴、男が身につけていた諸々の上に、真っ黒な蛇がとぐろを巻いて鎌首をもたげていた。 体長は、二メートルくらいだろうか? てらりと艶光る黒い鱗。 「!!!」 パニックだった。 真っ白だった。 硬直してしまって、その場から動けやしない。 目の前の光景を、どうやって理解しろって言うんだ。 黒い蛇体。 金の瞳。 チロチロと揺らぐ、赤い舌。 人間が蛇になった。それとも、蛇が人間に化けていたのか。 どちらにしても、信じられない。 関わりあいになりたくない! そう。 どんなものであれ、超自然現象や超常現象とはお近づきにはなりたくなかったりする。それが、普通の人間というものだろう。多分。いや、少なくとも、オレはそうだったりするんだが………。 硬直している間にも、カラス対蛇のバトルは続いている。 宿命の対決か? などと思わず考え込むくらいには、かなり執念深く戦いが続いていた。 付き合いきれないと思うくらいには長い時間だった。 だから、オレの硬直もいつの間にか解けていたのだ。 そうして、オレは、そこから逃げた。 ぶざまだろうがなんだろうが。 関わりあいになりたくないと思ってしまったのだ。 充分すぎるくらい関わりあいになってしまっていたと思い知ったのは、その夜のことだった。 夜、高遠の帰りは遅い。 その夜は特に遅かったらしい。 ◇ ◆ ◆ ◇ ◇その夜、オレは、夢を見た。いや、いつも見てたけどさ、特に印象的な夢だったということだ。 夢の中に、昼間の蛇人間(人間蛇だろうか?)が現われた。 そうして、 『よくも、私の冠と指輪を持って逃げたな! 報いを受けるがいい!』 などと、B級ホラーのような某恐怖漫画家の描く蛇女みたいな顔になって迫ってきたんだ。 夢の中、だらだらと脂汗を流しながら、それでも、オレは、喚いた。 『何言ってんだ! わざわざ木にまで登って取ってきてやったってーのに、落としたそれを拾いもせずカラスと喧嘩し始めたのはどこのどいつだよっ! だいたい、最後まで本性なんか見せんじゃない!! 驚いた人間が逃げんのあたりまえだっつーの。取って逃げた? おまえが受け取ってればそれで済んだんだよ。喧嘩なんかすっから、本性現わしたりすっから、忘れただけだ。ほら、返すから受け取れよ』 夢だからだろう、息を切らせもせずに一気に言ってのけた。御都合主義にも昼着てた服をオレは着てたから、ズボンのポケットから取り出したそいつをヤツに向かって投げた。 そんなオレを、まじまじと蛇人間は凝視すんだ。 『さっさと拾えよな』 腕組みをしてオレは睨みつけた。 オレが盗んだみたいに言うから、腹が立って腹が立って。 『あー、それは、すまなかった。こちらの勘違いだったみたいだ。……かえすがえすも済まない。おまえが、これを盗んだって思ったから、呪いをかけてしまった。それは、かけられた側で解くしかない呪いなんだが、頑張って解いてくれ』 先ほどまでの迫力はかけらもなくなって、そうして、歯切れ悪く脱力したように言うと、蛇人間は掻き消えたのだ。 『侘びをかねて、せめてヒントを教えておこう。恋人しだいだということだ』 ヒントになってもいないヒントがいつまでも殷々とこだました。 ◇ ◆ ◆ ◆ ◇深夜、いや、明け方近くになって、オレは高遠に揺り起こされた。 夢の名残りなどこれっぽっちも残ってはいなかった。 (なんだよ〜) 『疲れてる時ほどしたくなるもんなんですよ』 などと言って、挙げ句、半分眠ってるオレにあんなことやこんなことをしたことがあったから、うるさいなぁと手を振り払おうとして、オレの目は覚めた。 「!!」 いや、飛び起きたといったほうが正しいだろう。 オレの目の前には、高遠の顔が………。 「きみ………」 高遠にしては珍しく、狼狽えているトーンの声だった。 「はじめくん」 (なにいってんだよ) 言おうとして、オレの口から出たのは、 【キャンッ!】 という、仔犬の鳴き声だった。 抱き上げられて、鏡の前に連れてかれたオレが見たのは………オレってば、オレってば………柴犬になってんだ。 しっかし、高遠ってば、よくオレってわかったよな。オレだって信じられねーってーのに。 脱力しているオレに、 「犬になっても可愛いですけどね。やっぱり、いつもの君のほうがいいと思いますよ」 そんなことを言ってくれた。 そんなこと、言われたって、オレにどーしろっつーんだよ。 なりたくて犬になったってか? そんなメルヘンな………。 ある朝目が覚めると毒虫になってましたって、ディープでダークなメルヘンというか小説があったことを、フッと思い出す。 (あれってば、ラスト、アン・ハッピー・エンドだったよな) 主人公は死んで、挙げ句、家族は喜びいさんでピクニックだか何だかに出かけてゆくのだ。なんとも不条理きわまりないアン・ハッピー・エンディング。 ゲッ! 【キャンッ!】 鏡の中で、オレのしっぽが揺れた。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◇ペット同伴オッケーなホテルだったのか。オレがホテルのどこに高遠と一緒にいても、誰からも文句は出なかった。まぁ、犬にしてみれば、聞き分けがいいからっていうのもあるだろう。 バッカヤロー! あたりまえだっ! オレは人間なんだからな。 『可愛いワンちゃんね』 などといって頭を撫でる女の人たちに、いちいちそんなことを言っても通じるわけがない。 どうしたことか、英語以外の言葉も、聞き取れる。 これって、犬だからなんだろうか? よくわからない。 とにかく、犬になったオレを、高遠はどこにでも連れ歩いた。 オレが犬になってから、やがて一週間が過ぎようとしていた。 オレも煮詰まっていたけれど、高遠も煮詰まっていた。 表面は穏やかだが、内心はかなり来るところにまで来ていたのだろう。それは、後のパティの言葉からもわかる。 『あの時は、ミスター殺気だってたのよ。ポーカーフェイスはいつもとおんなじなんだけど、目がね、こう、穏やかじゃなくって。えと、何とかってブッダの眷族みたいに、底光りしててね、鬼気迫るってこういうことだったのねって。とーっても怖かったのよ』 オレだって怖かったさ。 犬だったから押し倒されなかったけど…………。ヒヤヒヤしていた。 抱き枕だの事故防止のお守りだのの名目で連れてこられてたオレが、よりによって、犬になっていたんだから。 「いつまで君は犬のままなんでしょうね」 高遠の膝の上で、風呂上りのドライヤーの風を感じているオレの耳に、高遠の切なそうな響きの声がこぼれて落ちた。 「そう落ち込まないで」 しかし、そういう高遠自身、あまり元気はない。 何でこんなんなったかな〜。 いつもは考えないようにしていたんだが、ショウや反省を終えて部屋に戻った後の高遠の別人のようなようすに、このままではいられないと強く感じたんだ。 だいたいオレ自身、人間に戻れないなんて、困る。 そうして考え込んでいたオレは、一週間くらい前の出来事をやっと思い出したんだ。 探し物を手伝ってやった相手が、人間じゃなかったこと。 やっと見つけたものを渡そうとしたら、カラスに邪魔されたこと。 そうして、その夜の夢。 『よくも、私の冠と指輪を持って逃げたな! 報いを受けるがいい!』 『あー、それは、すまなかった。こちらの勘違いだったみたいだ。……かえすがえすも済まない。おまえが、これを盗んだって思ったから、呪いをかけてしまった。それは、かけられた側で解くしかない呪いなんだが、頑張って解いてくれ』 『侘びをかねて、せめてヒントを教えておこう。恋人しだいだということだ』 原因といえば、これしか思い浮かばない。はなはだメルヘン…というか理不尽きわまりない原因だが、結果もまたメルヘンもしくは不条理きわまりないことだけに、ビンゴなんだろーなー………。 恋人しだい? ヒント? どこがだ〜!!! 頭を掻き毟りたいくらいだったが、犬の格好じゃ無理だ。 その場でゴロゴロと転がったオレは、呆れたような高遠の視線に気まずさを感じて、動きを止めた。 「はじめくん………」 抱き上げられた。 「はじめくんなんですよね」 そーだよ。今更何言ってんだ。 しっぽがパタパタと揺れる。 高遠の色の薄い瞳が、オレの目を覗き込んでくる。 そうして、高遠は深い深い溜め息を吐いたのだ。 (なんだよ) 【キャンッ!】 「たとえ、きみが、このままだとしても、心配することはありません」 (はい?) 顔が、鼻の一センチ先に迫っていた。 クスリ…と、高遠は笑った。 それは、みごとな、会心の笑というヤツだ。 一瞬オレが見惚れるくらいの。 「やっとわかりました」 (だから、なにが?) 「私は、一週間前の私の言葉を取り消します」 (いっしゅーかんまえっつーと………オレが犬になった日だよな。……なんか言ったっけか?) 「あの日私は、いつもの君のほうがいいと言いましたけど」 (そういや、そういうこと言ってたっけな) 「犬の君も、愛していますよ」 (へ?) 多分、オレの目は大きく見開かれていただろう。 「たとえ一生君が犬のままでも、私は、君を愛していますよ」 きっぱりと、いっそすがすがしいくらいの潔さで、高遠はそう言ったんだ。 そうして、オレの鼻面じゃなく、口に、その整ったくちびるを近づけ、触れた。 瞬間、オレのからだからまぶしい光が迸った。 思わず目をつむるくらい、まぶしい光だった。 光は部屋中にあふれて、もう一度オレの中に戻ってきた。 カッと全身が熱くなって燃えるような熱を感じたと思ったら、突然ポンという音がして、オレは、弾けた。 弾けた。 あの一瞬、オレはばらばらになったんだ。 あの衝撃は、今でも生々しく覚えている。 それはともかく、そうして、一週間ぶりに、オレは、やっと人間に戻れたんだ。 ―――恋人しだいだということだ。 あの蛇人間のヒントが、思い出された。 恋人しだいということは、つまり、人間じゃなくなっても愛してるということなのか。 つまり、う〜陳腐きわまりないことで口にしたくはないんだが、しゃーない。 つまり、鍵は恋人の真実の愛! なわけだ………。 真実の愛………。 脱力だよな。 実際オレは脱力してた。 人間に戻ったことで、全身がだるかったんだ。 けど、 「はじめくん」 それは、一週間お預けを喰らっていた高遠には、据え膳に見えたらしい。なんたって、オレは、スッポンポンだったんだ。外で元に戻らなくってよかった〜と感慨に耽ってる暇はなかった。 感動に打ち震えながら、高遠はオレを抱きしめ、そうして………これ以上は言わなくてわかるよな。 次の日から、高遠のショウはいつも以上にメリハリのある素晴らしいものになったってことだ。 その裏に、オレって存在があるってことを、スタッフ達が認めてくれたってことなんだろーな。オレに対する険しい視線や態度は、約一名からのものを除いて、すっぱりとなくなった。 それはバンバンザイなんだが……だが、それはとりもなおさず、オレが高遠の恋人ということをみんなが認めちまったってことなんだよな。 オレの内心は、複雑だったりする。 結局、オレって、このままずるずるいっちまうんだろうか………。 なんだか、一生この関係から逃げられないような気がするオレだった。 おしまい
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こんなんできました。
最初同じシチュエイションで、まだどうにか現実的なお話を書いてたのですが、どうも今一筆が進まなくて、メルヒェン……になってしまいました。しかも苦手な一人称………………。
面白いんだろうか、これ? 面白いと思ってもらえるといいのですが。
思わずメルヒェンになってしまったので、これは、『マジシャンシリーズ』の番外編という位置取りです。あ、中にでてくる小説は、『変身』(by カフカ)です。ネタばらしてしまってますが………。だ、だいじょーぶよね。ドキドキ。
それでは、少しでも楽しんでいただけますように。南無〜!