Just only one





 おや、これは。
 お珍しいお客さまですね。
 さぁどうぞ、遠慮はいりませんよ。
 どうなさいました?
 ああ。
 この部屋のありさまですか?
 彼らは、ただの人形に過ぎません。お気になさらずに。
 時々笑ったりしますけどね。
 お飲み物は?
 少し温めたミルクがよろしいでしょうか。
 少しお待ちくださいね。
 さぁ、そこのソファにくつろいでください。


 お待たせしました。
 それで、あなたのご要望は?
 何でもかまわないのですよ。
 わかっておいででしょう。ここは、彼岸と此岸とを繋ぐ、中有の闇。
 あなたがこの部屋へたどり着いたと言うことは、あなたは、今、生と死の境においでです。そうして、あなたの心は、憎悪に鎖されているといったところでしょう。
 復讐を?
 誰に、どんな、方法をお望みです?
 ああ、あなたたち、うるさいですよ。そんなに笑っては、お客さまが、落ち着かれないでしょう。
 え?
 ええ。そうですよ。彼らもまた、あなたと同じく、復讐を望み、そうして、最後の最後、失敗した、不出来なマリオネットです。
 叶わなかった望みに、忸怩たる悔いに、彼らは、人形になって、ここに留まっているのです。
 これでいて私も、捨てるほど、ひとが悪くないつもりですのでね。とりあえず、ここに、飾っているのですよ。
 あなたは、そんなことにならないように。


 そうですか。
 ご主人を、その兄弟に殺されたのですか。
 それは、辛かったでしょう。
 財産目当てに………。
 ええ。
 方法ならいくらでも。
 あなたの希望に沿って、この私が、教授して差し上げましょう。
 苦しませますか。
 一思いに殺してしまいますか。
 恐怖を思う存分味わわせてから?
 それとも、死より辛い状況に陥れますか?
 ……それは、もちろん。何もしないでおくと言う選択も、存在はしますけどね。
 けれど、たいていの方は、憎悪に身を任せられましたよ。

 あなたは、どれを選ばれますか。

 後悔なさらないように、慎重に、選ばれることを、お勧めしますよ。



 珍しいお客さまでしたね。
 ご主人がお迎えに来られるなんて、とても愛されていたのでしょう。
 ご主人の来訪だけで、憎悪が溶けてゆくのが、鮮やかに見えましたからね。
 おや、こんなところに。
 艶やかな彼の黒い毛皮に、この金の鈴はとてもよく映えていたのですけれど。忘れていかれたのですね。
 いい音色です。
 これは、私のコレクションに取っておきましょう。
 …………ねぇ、はじめくん。君は、いったいいつ、ここに来てくれるのでしょうね。
 それとも、どこかうっかりさんな君のことですから、殺されたことにも気づかずに、あっさりと、行ってしまうのでしょうか。
 ―――それは、つまりませんねぇ。
 ねぇ、君たちもそう思いませんか。
 私のただひとりを、いつかは、ぜひとも君たちにも紹介したいものです。


 ああ。
 また、お客さまのようですね。
 このお客さまに、彼を巻き込むように、頼み込んでみるとしましょうか。
 彼が、ここを訪ねてくる確率が少しでも高くなるように。


 さぁ、どうぞ。遠慮はいりませんよ。
 お好きなソファにおかけになってください。
 紅茶、それとも、コーヒーがお好みですか?


おわり



start 14:46 2006/03/11
end 15:24 2006/03/11


あとがき
 うううむ。
 久しぶりにしては、間抜けな話ですね。
 よくあるパターンな、オムニバスものの主人って雰囲気の高遠くんでした。
 少しでも楽しんでいただけるといいのですが。
 微妙なような。
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