LOVE SONG ]X

LOVE SONG end



「脈拍正常です」
「体温も呼吸も正常です」
「脳波にも異常は認められません」
「脳内、体内共に壊死等は認められません。正常に働いています」
「術後の回復は順調です」
「この状態で目覚めないのは、逆に不思議ですね」
誰かが声を上げた。

白い看護服に身を包んだ女性や男性たちが計器類を見ながら、まるで機械の一部ででもあるかのように、患者の周りでてきぱきと動いている。
「う〜ん、一番古い冷凍睡眠の患者だからなあ…何か他に問題でもあるのかなあ? いや、でも…う〜ん」
白髪交じりの医師が、腰に手を当てながら首を傾げている。

冷凍睡眠を解き、患者の病気が完治してから一ヶ月は経っていた。術後の経過もすこぶる良い。
同じ病の他の患者たちは皆、順調に目覚めていた。ただ、一番長く眠りに着いていたこの患者だけが、目覚めないままなのだ。特に問題無しとの判断で、今日、集中治療室から一般の個室に移したところなのだが。

「ああ、もうすぐ彼が戻ってくるんだったな。後は彼に任せるか」
白髪交じりの医師がそう言うと、看護師たちも「ああ」と言う顔をして頷きあった。
「そうですね。先生がもどってらっしゃいますものね」
「この患者の治癒の状況を見届けてから、すぐに出張なさりましたっけ」
「あの先生はお若いのに、この病気に関しては権威ですものね」
なぜか看護師たちは意味ありげな笑みを浮かべながら、顔を見合わせている。

「金田一君は、目覚めましたか?!」
噂をすれば影とでも言うタイミングで、その医師は病室のドアを開けて駆け込んできた。
つい今しがた、出張先のアメリカから帰ってきたところなのだろう。あわてて白衣に着替えて走ってでも来たのか、妙に汗だくだ。
「さっき集中治療室に行ってみたら、一般に移されたと聞いてきたのですが…」
どれだけ急いできたというのか、息も切れぎれだ。まさか、階段を走って来たのだろうか。
…この人ならやりかねない…
その場にいる全員が、一瞬、そう考えた。それほどに、彼にとってこの患者は特別なのだ。

「彼を目覚めさせるためだけに、ぼくは医者になったんです」
この患者が運ばれてきたとき、この医師はそう言ってのけたのだから。
どういう関係だったのかは、誰もが、傍で見ているだけで分かった。

「いや、それがまだなんですよ」
白髪交じりの医師ののんびりとした返答が、聞こえているのかどうか。彼が汗で張り付いた前髪を掻き揚げると、綺麗な富士額が露になり、周りの女性看護師たちは内心『きゃっv』と声を上げた。
かなり変わり者の医師だが、見た目だけはモデル並みに整っている。彼は知らないが、隠し撮り写真集ソフトとやらが女性看護師の間で横行するほどに、隠れファンは多い。
その医師は患者の傍らに立つと、眠ったままの患者の顔を見つめた。
患者は未だ、沢山の計器類のコードや点滴のチューブにつながれてはいるが、自発呼吸は十分なようで、すでに呼吸器だけは外されている。血色もよく、周りの計器類さえなければ、ただ、すやすやと眠っているようにしか見えない。
本当に目覚めさえすれば、何も問題はないのだが…最悪、このまま目覚めない…ことも考えられた。

「まだ、一度も、ですか?」
確認するように、医師は一言ずつ、言葉を区切って訊いてくる。 「そう…」
気まずそうに、白髪交じりの医師は無精ひげを撫でながら、簡潔に答えている。
「………」
押し黙った医師の漂わせる空気感に押されるように、看護師の一人が声を上げた。
「あ、ああ。私これから病室周りだったわ」
「私もセンターに戻らなきゃ」
「僕も」
いそいそと部屋から出てゆく看護師たちを見やりながら、白髪交じりの医師は、ひとつ咳払いをした。
見てくれは、今来た医師よりも遥かに年上で格上には見える、のだが、酷く声を掛けにくそうだ。
「病人自体に異常は無いようなんだがね…」
「そんなの計器を見ればわかります」
遠慮がちに言いかけた言葉を、早く出て行けと言わんばかりの台詞にさえぎられた白髪交じりの医師は、仕方なく、それ以上は何も言わずに部屋をそっと出て行った。今来たばかりの、この(脳内的に)切れ者の医師は、本当に(精神的に)切れた時も怖いのを皆よく知っている。触らぬ神にたたり無し、なのだろう。

他の誰もがいなくなった部屋に一人残った医師は、眠り続けている患者の顔をただじっと見つめ続けていた。
紅みの差した頬、ぷっくりとふくらみのある柔らかそうなバラ色の唇。今にも目覚めそうなのに、眠ったまま、その状態を続けている彼。
医師は、長い間待っていた。そしてようやく、ここまで来たというのに。



はじめが眠ってから数年後、冷凍睡眠は確立され、宇宙開発のために実用化された。現在の医学では治療不可能な患者にも、それが適用されることとなったのは、実はまだ記憶に新しい。
そんな中、世界中から難病治療の研究に取り組んでいたトップクラスの頭脳を持つ医師たちが選抜され、眠っている患者らを救うために組織化された。その中には当然のように、医師となった高遠も名を連ねていた。遺伝による難病患者の、遺伝子細胞の研究の成果を認められての選抜だった。

高遠の属するグループは、中でも目覚しい発見を繰り返し、ついには、はじめの病の原因となっている遺伝子細胞にまでたどり着いたのだ。
異常なまでの執念、と言ってしまえばそれまでだが、彼らの発見は、ほかの病に苦しむ患者にも応用が利き、より多くの患者を助けることができた。おかげで忙しい高遠は、肝心のはじめの傍にはなかなかいてやれない。だからこそ、高遠ははじめを、元々自身が所属する日本の病院に移してまで、彼自らが主治医となって治療を続けてきたのだが…
実験段階でコールドスリープに入った彼は、他の患者よりも長く眠っているためにか問題は多く、今も原因が分からないまま、昏々と眠り続けている。

高遠は白衣のまま、そっと、はじめのベッドの片隅に腰をかけた。そうしてしばらく、眠ったままのはじめの顔を見つめ続けていた。一般の個室に移されたはじめの顔には、窓から入る柔らかな秋の光が陰影を落としながら、彼の顔を照らしている。
古い自分の記憶の中にある彼よりも、幾分か細くなっているはじめの顔は、それでも穏やかで、どんな夢を見ているのか、目覚めていた頃よりも幸福そうに見える。
自分の夢を見ていてくれたらいいな。そんなことをふと考えて、苦笑する。
彼に対して、してきたことを思えば…。

「今日は、とてもいい天気ですよ。はじめ」
そっと、高遠は消毒された自分の掌を、はじめの頬に当てた。
とても温かい。血管の脈動さえ、感じることが出来そうだ。
「きみとは、秋まで一緒には居られませんでしたから、これが二人で過ごす初めての季節ですね」
言いながら窓の外に目をやる。窓からは緑から黄色へと鮮やかに変化した銀杏の葉が、陽の光を弾きながら風に揺れているのが見えている。その向こうには、夏とは違う深く澄んだ青空が、たなびく白い雲を浮かべている。

すぐ傍では、計器に繋がれた、はじめの心拍を知らせる電子音や、その他の機械類の低い稼動音が響いている。
はじめが確かに、生きているという証だ。
それでも、寂しいと思った。
はじめの声の聞こえないこの世界は、酷く寂しい。

少し舌足らずな声で、反抗ばかりしてきた彼。
なのに今は、眠ってばかりで、何も言ってはくれない。

どうしてもっと、彼の声を聞いておかなかったのだろう。
どうしてもっと、優しく出来なかったのだろう。
奪うことばかり、自分のことばかりを考えていて、彼を思いやることなど、しようともしなかった。
人を愛する術など、何も知りはしなかった。

胸の中にあるのは、後悔ばかり。
今も、ずっと。

彼の日記を初めて紐解いたときは、あまりの自分の愚かさに、自分を殴りたくなった。
どれだけ、自分はバカな男だったのだろうと。本当にバカで、子供だったのだと、思い知った。
はじめの悲しいまでの決意と、強く儚い願いと。叶える事が出来ないとわかっていながら、してくれた約束もすべて、こんな愚かな自分のため、だったのだと。
一体自分は、彼の何を見ていたのだろう。
ぶっきらぼうに話して、反抗ばかりして。だから、そんな彼を傷つけてばかりいた。
何の見返りも求めず、何の希望も持たず、ただ絶望しながら、すべてを諦めながら、それでも彼は傍にいてくれたのに。
自分だけを、愛していてくれたのに。
なのに自分は、何も知らずに…。

あんなに泣いたのは、恐らく祖母が亡くなった時以来、だったろうか。

それからは、彼が目覚めることだけを信じて、がむしゃらに駆け続けてきた。
国立の医学部に進学し、トップ成績で卒業し、医師免許を取ってつらい下積みを経て、研究設備の整った大学付属病院に入って。その中でも、特に出世とは縁が無いと言われる地味な研究に没頭して、変わり者だと周りから言われても、はじめとの約束を叶える為にだけ努力し続けて。
そうして、あっという間に時間だけが過ぎ、気が付けば19年もの歳月が流れていた。

頑張った甲斐もあってか、病の原因を突き止めることも出来た。沢山の患者も治してきた。
なのにまだ、約束は…自分の願いだけは、叶えることが出来ないでいる。
まるで、息継ぎを許されない遠泳をしている気分だった。冷たい水の中で、もがいて苦しいだけの…。

はじめも、もしかすると、こんな気持ちだったのだろうか?
命を諦めながら、ずっと苦しみながら、笑っていた彼。
一番傍にいたのに、何も気づけなかった、気づこうともしなかった自分への、これは罰なのだろうか?
そんな気さえしてくる。

「どうして目覚めてくれないんですか? そろそろ、夢は見飽きてもいいんじゃないですか? はじめ…」

このままじゃ、くじけそうだと弱音を吐きそうになって。
再び、はじめの顔に視線を落とした高遠は、一瞬、はっと息を止めた。
微かだが、はじめの瞼が動こうとしている気がしたのだ。
顔を寄せて、今度は両手ではじめの頬を挟み込むように触れながら名を呼んだ。きっと、室内をモニターしているカメラからはキスしているように見えているだろうが、そんなことはどうでもいい。どうせ、女性看護師がモニター画面に群がっている程度のことだ。

「はじめ、はじめ? わかりますか? はじめっ」

小声で、はじめの耳元に何度も囁きかける。それはまるで、祈り。
すると。
はじめの右手が、わずかに緩慢に、何かを求めるように、高遠の白衣に触れた。
高遠は咄嗟にその手を掴むと、自分の口元にその手を持ってゆき、再び名を呼んだ。
今まで、何度呼んだかわからない、その名を。
両手でしっかりと、彼の手を握り締めながら。

「……」
はじめの唇が、眠ってから、恐らくは初めてだろう微かな音を発しようと動いた。
そして、ゆっくりと、懐かしい舌足らずな声で、小さく彼は言った。
「……か…と…」
閉じたままだった瞼が、その声につられるようにして、ゆっくりと、本当にゆっくりと開いてゆく。
やがて、寝ぼけているかのような、ぼんやりとした眼で。それでも確かに、高遠を見た。
以前のままの茶色い瞳に、秋の柔らかな光を映しながら。
「ええ、ぼくです。『たかとお』ですよ。はじめ」
高遠は、自分の都合のいい夢を見ているのではないのかと、信じられない思いのまま、はじめを見つめた。
「…た…かと……の?…そ……とも…ゆ…め…?」
はじめの唇からは、たどたどしく弱弱しいが、間違いなく言葉が発せられている。
「夢なんかじゃありません。ぼくです。きみは、長い夢からやっと目覚めたんですよ!」
高遠がそう言うと、はじめは少し笑う様に目を眇めて。
再び瞼を閉じた。

高遠は迷わず、ナースコールを押していた。
はじめの頬には、はじめが零したのではない、雫が落ちていた。


その日から、約一ヶ月が過ぎた。

最初の頃は、ほんの僅かな時間しか目覚めていられなかったはじめだったが、徐々にだが、確実に起きていられる時間は長くなっていった。だが、腕を少し動かすことぐらいなら出来るが、指に力が入らずに、まだスプーン一つ満足に持てない状態が続いている。当然のように自力で起き上がることなどは無理だ。すべての運動能力が極端に落ちていた。
冷凍睡眠自体がまだ実験段階の状態で、永い眠りに就いていた弊害かもしれないが、しかし、とにかく目覚めたのだ。一番の問題はクリアーしたと考えていいだろう。後はリハビリで何とかなる筈。
この一週間などは、はじめがうんざりするほど色んな検査もしたが、脳や記憶、脊髄、神経細胞、筋肉組織にいたるまで、身体的にはなんら問題なしという結果も出ていた。

「はじめ」
いきなりドアを開けてから、内側からノックするのは反則だろう。と、はじめは思うのだが、高遠はそんなことはお構いなしだ。昔から、自分ルールなのは変わらないなあ。と、はじめが内心苦笑しているのを、この男は知っているのだろうか。
大体が、あの高遠が医者になっていること事態が驚きなのだけれど。
一体、自分が眠っている間に、何があったというのか。

「具合はどうですか?」
傍に来るなり、寝たきりのはじめの毛布を剥ぎ取り、パジャマのボタンを当然のように外しながら、訊いてくる。
「ん、結構順調だよ」
「それはよかった。この調子なら、そろそろ食事も固形物に切りかえていっても大丈夫そうです」
「マジで! よかった〜。もうおかゆ嫌だったんだよ〜」
「綺麗な看護師さんが食べさせてくれるから、ご機嫌だと聞きましたがね」
聴診器をはじめの胸に腹にと当てながら、高遠が軽口を叩く。そんな高遠を見ながら、はじめは思う。自分は19年間もの間、眠っていたらしい。だから今の高遠とは、20歳も年が離れていることになるのだが。

けど、たかとおって、そんなに年取っているようには見えないよな。
まあ、確かに以前よりも、ずっと大人っぽくはなったけど…。でも…。

『でも…』。そう、高遠の左手の薬指には指輪が嵌められているのだ。

「ぼくの顔に、なにか付いてます?」
「えっ、いや、別に///」
そんなにじろじろ見つめてしまっていただろうかと、ちょっと頬が熱くなる。
『でも…』
気になっていたことが、ふと頭を掠めて、すぐに気分が暗くなる。そんなはじめの様子を察してか、高遠が小首をかしげながら、聴診器を耳から外して白衣のポケットに入れた。
「どうしました? なにか訊きたそうですね」
「…ううん。なんでも…」
「無いとは言わせませんよ?」
いきなり、はじめの顔の横に手を着いて、高遠は真剣な眼差しではじめを真上から見つめた。
今まで随分と嘘ばかり吐かれてきたのだ。もう二度と隠し事は許さない、とでもいった空気が漂う。
はじめはというと、そんな高遠の突然の行動に驚きながらも、なんだか学生の頃に戻ったような懐かしさで、ふふっと、笑みが零れていた。
「何がおかしいんですか?」
高遠も真剣だった眼差しに笑みを浮かべて、はじめの頬に触れてくる。
「なんだか、あの頃に戻ったみたいだなって…おれにとっては、ちょっと前のことみたいなもんだけど」

よくこうして、あんたに押し倒されたよね…。

はじめの細い腕が弱弱しく伸ばされて、高遠の首筋に回される。パジャマは、まだ開かれたままだ。
「…ここは病院ですよ。こんな所でぼくを誘惑してどうするんですか。不良患者ですねえ…」
と、言う割には、高遠ははじめの頬に当てていた手を、首筋から胸元へと滑らせていた。ただそっと弄るだけで、はじめのそこは硬く尖り、主張し始める。
「……ぁ…」
「相変わらず、感じやすい身体ですね」
「い…しゃが…なにしてんだよ! それに、たかとお、結婚してるんじゃないの…か…?」
思わず、一番気になっていたことを咄嗟に口にしてから、はじめは『しまった』と思った。

高遠が幸せになれるのなら、それで仕方が無い、それでいいんだと納得して自分は眠りに付いたはずなのに、こうしてまた、まだ若い高遠を目の前にすると、どうしようもない想いは、やはり何年経ってもどうしようもないままだったのだ。だが、19年は長い。高遠が誰かと新しい人生を歩き始めていても、十分過ぎる時間には違いないだろう。
左手の指輪が、そのことを如実に語っている気がした。

一瞬目を閉じて、僅かに震える息を深く吸い込んだ。それは、その言葉に対する答えを覚悟するため、だっただろうか。
だが、返ってきた答えは。

「は? ぼくが結婚?」
何の冗談ですか、それは。とでも言いたげな声が降って来た。

「…だって、たかとお、左手に指輪してる…」
今気づいたとでも言うように、左手を見て、高遠は「ああ」と声を漏らした。
「これは、まあ、虫除けというか、お守りみたいなものです」
言いながら、僅かに苦笑した。
「虫除け?」
不思議そうに首を傾げるはじめに、高遠は微笑む。
「そんなところです」
他からのちょっかいを避けるためと…自分の初心を忘れないためのおまじないだと、ここで説明をしても仕方がない。
はじめは目覚めた。すべてはここから。ようやく、スタートラインに立った所なのだと、はじめは自覚などしてもいないだろう。

「きみを目覚めさせるために、ずっと研究の虫だったんですから。周りからは変人呼ばわりのぼくが、結婚相手を作っている暇なんてあるわけないでしょう」
「えっ?」
「大体が、きみはぼくの恋人だと周りには公言済みです」
「ええっ?!」
「だって、確かにきみは約束してくれましたよね? ぼくが真面目に生きていたら、遠い未来で会ってくれると」
「たかとお… まさか、そのために…医者に?」
「約束は守ってもらうためにあるのですから。それに…きみの日記は全部読みました。明智から受け取って」
「!!」
「本当にきみは嘘つきですねえ。ぼくは見事に騙されていました」
高遠の言葉に、はじめの眦からポロポロと涙が零れ落ちた。その涙を、高遠はそっと指先で拭う。
「黙ったまま一人で逝こうだなんて、ずるいですよ。ぼくの気持ちを知っていながら」
「…だって、おれ、あの時はああするしかないと、思ってた…から…でも」
高遠の首筋に回した手に、今、出来る限りの力を込めて、はじめは彼を引き寄せた。はじめに引き寄せられるままに、高遠が身体を寄せると、はじめの顔に高遠のさらさらの黒髪が掛かる。

懐かしげに、愛しげに、はじめの瞳の中で色んな感情が揺れている。
ずっと言いたくて。でも、決して本気で言ってはいけなかった言葉が、今なら言える。いや、言わなくては。
すべてを知った上で、彼は待っていてくれたのだから。
勇気を振り絞るように僅かに震える唇で、はじめは好きな人に捧げる言葉を、自ら初めて、紡いだ。

「好きだよ、たかとお。…ずっと、ずっと前から大好きだよ」
すぐ目の前の、高遠の目がやわらかく微笑む。
「きみの本心をずっと聴きたかった… ようやく、願いが叶いました…」

高遠の手が、はじめの背に回される。互いの唇が深く重なり合う。
心と一緒に。

悲しくも無いのに、再びはじめの眦に涙が零れた。
無いはずだった未来が、諦めていた未来が、いま、この腕の中にある。
胸の中が、暖かく満たされてゆく。
空洞を抱えていた過去が、嘘のように。

長い年月の果てに、本当の意味で、愛している人に向き合えるようになったのだ。
もう、怖いものなんて何も無い。心をごまかして嘘を吐く必要も無い。これからは二人で歩き始められる。
笑いあって、時にはけんかもして。
普通の恋人として、未来を紡いでゆける。


もう、哀しいラブソングはいらない。
『あなたなしでは生きて行けない』だから。
これからは離れないで、愛の歌を歌おう。

Can,t live. live with out you.
それはそれは、古い古い「LOVE SONG」。

あなただけに捧げる「LOVE SONG」を。
共に。



09/07/03   了
15/01/20   改定
____________________________________________________ 長い連載になってしまい、本当に申し訳ありませんでしたm(_ _;)m
一体、何年かかって完結したんだって言う…
本当に魚里さまには、ご迷惑をおかけしました。
この場をお借りして謝らせて頂きたいと思います。
本当にごめんなさいm(_ _)m(深々)

最初、魚里さまとメールで盛り上がったのが、このお話を書くきっかけでした。
途中色々あって、長く中断してしまったのですが、完結できてほっとしております。
書き足りない部分も多々あるのですが、自分の力量が足りなくて///
自サイトでの長期にわたる連載を許してくださった魚里さま。
そして、最後まで読んでくださった方々に、心から感謝いたします。

−竹流−

END

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