まちびと





 ああ、あしたっから冬休み。
 語尾にハートマークをつけたい気分で、はじめは、悪友達三人と校内を歩いていた。
 二学期後半は、ともかく波乱万丈だったけど、どうにかこうにか、終わりだ。
 あとは、三学期で、中学ともお別れである。
 その前に、高校受験があるけど。
 最終の、進路相談のとき、『何でこのやる気をもっと前から出さないんだ』と、担任に嘆かれたけど。母親は、なんかいつものとおり、にっこりと笑ってただけだった。
(オレの成績がどんなに悪くっても、おふくろが怒ったり嘆いたりしたの見たことないよなぁ)
 なんでだろ。
 首を傾げたはじめは、ふと、窓から校門に視線を流した。
「どした?」
 どやどやと、悪友達が、はじめの見ている方向に前へならえする。
 黒地や紺地のサージのセーラー服や、学ランのせいで、文字通り、黒山のひとだかりが出来上がっている。
 きゃあきゃあと、女の子達のざわめきが、ここまで聞こえてくる。
「ひよこでも売ってんのか?」
「まさか」
「だよな」
 階段を下りて、下駄箱に室内履きを突っ込む。
「成績表見せるのが苦痛だなぁ」
 口々に、悪友達がぼやく。
「クリスマスにもひびくしな。お年玉にもひびく」
「クリスマスか。どっかで集まって騒がないか」
「受験前の景気づけってか?」
「もちろん」
「それすぎたら、全員ライバル一直線だし」
「ぎゃー! それ言うなって」
「オレら、どんぐりだもんよ」
「みんなで不動高に合格できりゃーいいよなぁ」
「一番の理想だ」
「じゃ、初詣でも行くか」
「いいな。元旦」
「で、受験ってか」
 突然の突っ込みに、
「うっ」
「ぐっ」
「げっ」
 残る三人が、心臓を押さえた。

 黒山の人だかりの原因は、すぐに知れた。
「ああ、あれか」
「はでだな」
「メタルレッドの外車ねぇ」
 スマートでありながら存在感のある、そんな自動車が、校門脇に停められていたのだ。
「ひと待ち?」
「中学だぜ、ここ」
「中坊相手になにやってんだか」
 興味をなくして、はじめは、ひとだかりを迂回しようとした。
 しかし、きゃあきゃあと騒ぐ周囲をきれいに無視して、車体に凭れるひとりの人物が、はじめの視界をかする。
 痩身を包む長く黒いコートが、風に揺らぐ。
 腕組みをして、足を交差させているのが、やけに、さまになっていた。
「あれって」
「ほら」
「こないだの」
「きれーな、おにいさん」
 最後の台詞は、三人がきれいにはもる。
「へ?」
 脇腹をつつかれて、顔を上げたはじめの顔が、ひきつった。
 それもそのはず。
 つい先日、出会い頭に、『懐かしかったものですから』と、キスしてきた相手だ。
「この騒ぎの元凶は、金田一な」
「決定」
「呼ぼうか?」
「や、やめれっ」
 手を大きく被った悪友の肩を掴んだはじめの視線の先で、ゆっくりと、琥珀色の双眸が、移動する。
 白皙の美貌が、はじめに向い、にっこりと、満面の笑みを、たたえた。
 きゃあ――と、ひときわ大きな歓声が、ひとだかりから迸る。
 とんと上体を車から離し、流れるように、青年が、歩く。
「こんにちは、はじめくん」
 悪友の肩越しに見下ろされ、語尾を跳ね上げた声が、やわらかく、はじめの耳に届いた。
「君たち、はじめくんを借りてもいいかな」
 疑問系でありながら、決定事項に聞こえる。
「どうぞ」
「いくらでも」
「おもちかえりしてください」
 悪友達の台詞に、
「お、おまえらなぁ」
 はじめの反論は、力ない。
「じゃ、そういうことで。行きましょうか、はじめくん」
 手を取られて、はじめは、歩くよりなかった。
「ああ、お母さんには了承を得てありますからね」
 ご心配なく。
 悪戯そうに片目を閉じられて、はじめは、思わず、真っ赤になった。

 こうして、衆人環視の中、きれいなお兄さんにエスコートされて、はじめは、車中のひとになったのだった。



おわり



start 10:31 2006/02/11
up 11:25 2006/02/11


あとがき
 久しぶりの高金なんですが。萌え所がなしですねぇ。シクシクxx
 『再会』の数日後ということです。竹流さま宅で、バイクに乗った高遠くんというのに萌えてたのですが。メタルレッドの外車(あるのか?)に、なってしまいました。どうも、高遠くんは、赤と黒なイメージしか湧かなくて……。
 高校受験は、三月だったか、二月だったかですよね。で、中学って、自宅学習は、なかったかな? すでにあやふや。
 冬休み前の話――と、あまりにも時期がずれてますが。
 ともあれ、少しでも楽しんでいただけると、御の字です。
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