祭 2

 いい匂いがしてた。
「おっちゃん、一舟ね」
「らっしゃい」
 ねじったタオルで額を縛ってる髭面のおっちゃんが、威勢よく応えてくれる。
 やっぱ、祭のときはこれだよな。
「はいよっ、xxx円ね」
 熱々の容器の底を持って、オレは、袂に手を突っ込んだ。たしか、この辺に小銭を入れてたはずなんだけどな。
 オレがごそごそやってると、
「はい」
と、白い手が、千円札を差し出した。
 反対側の手でオレが押しつけた綿菓子をもってるというのに、なんで、こう、さまになるというのかなんというのか。
 近くにいたカップルの女の人が、高遠を見てポーっとなんてる。
 はぁ。
 きっと、この後、恋人と喧嘩すんだぜ。
 ここに来るまで、何度もよく似た光景を見てきたオレは、脱力する。
 もっとも、たこ焼きは落とさないけどな。もったいない。
 ちゃりちゃりとつり銭が、高遠の白い手に落とされる。
 それを横目で見ながら、オレは、きびすを返した。
 鳥居もくぐったし、賽銭箱に賽銭も放り込んだ。あとは、帰るだけなんだけどなぁ。
 オレンジ色のライトに照らし出された参道を見て、オレは、うんざりする。
 よくもまぁ、こんだけ暇なやつらがいるもんだ。
 って、オレらもそのひとりっつーか、仲間だけどよ。
 道の縁に寄って、オレは、たこ焼きを爪楊枝で突き刺した。
 口に入れる。
 うまいっ!
 何が違うのかわかんないけど、夜店で食うたこ焼きは、格別だ。
 ぐもぐもとやってると、
「おいしいんですか、それ?」
 高遠がオレの顔を覗き込んできた。
 色の薄い目が、オレンジのライトを映して、金色に光る。
 興味津々とした表情で、心持ち首をかしげてオレを覗き込んでくる高遠の顔は、めちゃくちゃ整っている。いわゆる綺麗といわれる顔の中で、目尻の下がった目と弧を描いた眉が、なんというか、アンバランスに色っぽさを強調してる。きっと、オレが女だったら、心臓がドキドキしてるんだろうけどな。
「喰うか?」
 目の前に容器を差し出すと、
「そっちをいただきたいですね」
 またかよ。
 こいつってば、マジで、羞恥心とは縁がないんだな。
 いや、言ったと同時に、高遠は、オレが新たに突き刺してたたこ焼きを、ぱっくりと頬張りやがったんだ。
 焦る。
 だってな、やっぱ、他人の目があるわけで。
 祭に来た早々、この調子で綿菓子をやられてさ。
 足早にお参りを済ませたわけだけど。
 まったく。
 オレがぶちぶち言ってると、
「ここ、ついてますよ」
 高遠が、オレの口をつついた。
「サンキュ」
 擦ろうとした手は、けど、高遠に掴まれて、動かせなかった。
 おいっ!
 おいっ!!
 おいっ!!!
 高遠の繊細そうな手が、オレの顎を捉えて、仰向かせた。と、思う間もなかったんだ。すっと、あまりにスムースに、高遠のヤツは、オレの、オレの――――――――
「ファーストキスッだったのにっ!」
 手にしていたたこ焼きが、足元に転がり落ちる。
 オレは、場所も考えずに、ムンクの叫び状態で、叫んでいた。



おわり

start 15:00 2007/06/12
up 15:54 2007/06/12
 ◇言い訳◇
 久しぶりに高x金です。
 しかも、三年ほど前の、祭――の続き物。いや、いきなり続きというのが、どうもこうも、魚里ですが。
 あまり色っぽい話は、やっぱり書けないなぁ。衆人環視のキス。しかも男同士………。けっこう派手な題材だとは思うんですがね。う〜ん。書き方かな。精進精進。
 少しでも楽しいとおっしゃってくださる方がいると、うれしいんですが………。微妙かな。
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