プロフェッサー 2



「どこにいんだ? プロフェッサー」
 あっち――と、はなはだ要領を得ない答えに礼を言い、彼らはファーストフードの店を飛び出した。
 きょろきょろと、女の子たちの言った方向に視線を泳がせる。
「いたっ!」
 それは、かれらのいた店からほど遠からぬ、交差点だった。
 彼らの向い側、車が行き交うその隙間から、あれがあの鉄面皮のプロフェッサーかと、目を疑わずにいられない、満面の笑顔が見える。ちょうど彼の近辺に居合わせた通行人は、思わずといった風情で、高遠教授に見惚れている。しかし、あまた無作為の視線を集めている当の本人はといえば、一人の人物に顔を向けて、逸らさない。
 高遠客員教授が視線を向けているのは、彼ら生徒たちが期待していた絶世の美女などではなく………
「うそっ」
「あれか?」
 かといって、美少女でもなく、百歩譲ってかろうじての、美青年や美少年でもない。
 なんともさえない、一介の男子高校生だったのだ。
「ありゃ、不動高校の制服だな」
 ひとりがつぶやく。
「おまえの出身校か」
「ああ。でもって、ネクタイの色………二年だな」
 よく跳ねている長めの髪を、後ろで一本に括って、どちらかというとだらしない感じの制服の着こなしだ。やる気なさそうに肩を落として、なにごとか頷いている。その投げやりな態度が、高遠教授を前にしてのものとは、彼らにはとうてい信じられなかった。
「う〜ん。どんな関係だと思う?」
「もと、かてきょう(家庭教師)と教え子……」
「それは、時間的に無理だろ。プロフェッサーが日本に来た時から逆算してみな」
「そりゃそうか。じゃあ、家族ぐるみの知り合い」
「それであの笑顔は、あんまりありえんだろ」
「医者と患者」
「無難な線か」
「ないだろ………」
「大穴で……兄弟なんつーのは?」
「見えん。第一、弟にあんな笑顔振りまくか?」
「じゃ、対抗馬で、恋人…………とか?」
「んな、あほな」
「でも、見てみろよ」
 指差す先の光景に息を呑む。
「おいおいおいおい…………」
「天下の行動でなにやってんすか」
「うわ〜」
「プロフェッサー」
 思わず己が目を疑い、髪を掻き毟りたくなるような展開に、四者四様の悲鳴がほとばしる。
 居合わせたものたちもまた、固まっている。
 なぜなら―――
 少年の手を取り、その掌(てのひら)にくちづけているプロフェッサー。これが、天下の交差点でおこなわれていい光景だろうか。
「いいわけない!」
 それが、その場に不幸にも居合わせることになったものたちの、共通の意見に違いなかった。
 そうして、それは、当事者である高校生にも共通であったらしい。
 遠目にも真っ赤になったとわかる少年は、プロフェッサーに鞄を投げつけるように押しつけ、信号が青に変わったのをよいことに、走り出した。――おそらくは、逃げ出したのだろう。が、学生鞄を相手が持っているのでは、あまり意味はないだろう。
 少年が、彼らのすぐ側を走りぬけた。
 しばらくして教授が、ゆったりと彼らとすれ違う。
 その時高遠客員教授が独り語ちた台詞に、ふたりの関係が集約されていたような気がするのは、彼らの穿ちすぎだろうか。

 曰く、
『まったく。はじめくんは、照れ屋ですね』
 語尾にハートマークがついているに違いないその声を、彼らはしばらく脳裏から閉め出すことができないだろう。

「やっぱ、天才はどっかもげてんな…………」
 しみじみとした感想に、彼らは、いっせいに頷いたのだった。



おわり?

back?

up 21:09 2004/06/16


あとがき
 どうやら第三者視点での彼らというのを書いてみたかったらしいですが………視点が多すぎましたか。う〜ん。いまいちかな。少しでも楽しんでもらえると嬉しいんですが。どうでしょう。
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