狼は眠らない 1




≪プロローグ≫


ドイツの暗く深い森の中で、伝説の黒い獣が魔女(ツァオベリン)の財宝を守っている。
 火刑に架けられた女主人。その財宝が、崩れかけた古城のどこかに眠っている。
 主人の死に狂った獣は、近隣の村々を恐怖へと陥れた。
 邪悪な幽鬼――ユーベル・レムゥレンと呼ばれた、兇々しいまなざしの、狂える獣。魔女の使い魔(ディーンスト・ボーテ)――血色の瞳の、漆黒の怪物(モンストゥルム)。
その呪いは霧となり、深く暗い森を支配していた。


≪そ の 一≫


夏休みは始まったばかり。
 成田国際空港は、いつものように人の活気に満ちている。
 鏡原まりあは、海外旅行の興奮に賑わうロビーから何度もエントランスを見ていた。
 待っている相手は、まだ来ない。
 まりあが乗る飛行機の搭乗手続きはもう始まっているというのに――である。
 来られないのかもしれない。
 まりあが半ば諦めかけて、ためいきをついた時だった。
「まりあさん。もう行きますよ」
 真純の声が後ろから聞こえてきた。彼女は継母で、しかもあまり仲が良いとはいえなかったりする。そう。これからヨーロッパに行くというこんな時に、こんな場所で、機嫌をそこねたくなかったのだ。だからまりあはあわてて振り向いた。
 瞬間、まりあの全身が硬直する。
(しまった…)
 と、思った。
 焦って行動するとロクなことにならない。まさに今この時がそうである。なぜって、イヤなものを見てしまったのだ。大嫌いな渡辺俊雄と、彼の背中にぴったりとくっついているもの。怖いと感じると同時に、目を逸らせることすらできなかった。
 自分が俊雄を嫌っているのと同じだけ、彼も自分のことを嫌っているだろう。
 目を見ればなんとなくわかるもんだなと、妙な感心をしたことがある。自分もあんな目をして俊雄を見ていたりするのだろうか? ちょっと不安だった。俊雄が自分に向けるのは、忌々しいような、不快なまなざしなのだ。そんな視線を向けられるのは、気持ちのいいものじゃない。それに、俊雄は真純の恋人なのだ。
 恋人!
 不倫じゃないのが救いといえば言える。それでも、イヤだ。気持ち悪い。父に対する裏切りだと思ってしまう。なぜなら、父が突然逝ってしまってから、まだたったの一年でしかないのだ。
 もちろん、真純は父の死後に俊雄と知りあったのだというけれど。それでも、あんまりだと思わずにいられないのだ。
 まりあの心の中を読みでもしたのか、俊雄の背中のものがニヤリと嗤う。
 刹那、まりあの背筋がぞわりと逆毛立つ。まりあはぎこちなく目を閉じ、やっとのことで顔を背けた。
「まりあ!」
 その時だった。ロビーのざわめきを縫って彼女を呼ぶ声がきこえてきた。特別大きくはないものの、印象的な、よく通る声である。声の主がだれなのか、確かめるまでもない。まりあは彼を待っていたのだ。
「真純さん。先に行っていてください。昴一と話してから行きます」
 まりあの言葉にはじめて、真純は昴一に気づいたらしい。とたん、真純の機嫌が悪くなってゆく。
 彼女が昴一を嫌っているのは、鏡原の者なら知っていることだ。もちろん、昴一だって知っている。一緒に住んでいるのだから、厭でも気づいてしまうのだろう。気づかれていないと思っているのは、多分、当の本人だけだったりするのではないか。
 感情の起伏が激しい真純は、それでも可能な限りは自分を抑えているらしい。きっと我慢の限界がひとよりも早くきてしまうのだろう。ささいなことで爆発して、まりあを驚か
 せるのだ。ただでさえそうなのに、この旅行を決めてからというものやけにナーバスになっている。こどもじみた癇癪で手がつけられないときがあった。そんな時まりあはそっと自分の部屋に避難するのだ。
 だから、こんなところでまた喚いてしまうのだろうかと、心配になる。もっとも真純にだって、旅行を台無しにしてはつまらないという分別くらいはあるだろう。大人なのだから………。
「わかったわ。くれぐれも遅れないように」
 それだけを言うと、真純はくるりと背を向けた。
 海外ブランドの姿勢のいいスーツ姿が人込みにまぎれてゆく。それを見送って、いつの間にか詰めていた息を吐き出すまりあだった。首から肩にかけてのこわばりが解けてゆく。やっとのことで振り向くことができたまりあである。
「昴一。遅い。それにまた呼び捨てなんかにする。いつも“おねえさん”って呼びなさいって言ってるのに」
 馴染んだ台詞だった。
 まりあは軽く怒ったふりをして、頭一つ分高い位置にある昴一の顔を見上げる。
『武藤くんに対する“好き”は、恋愛感情じゃないの?』
 ふっと、周子の声が頭をよぎった。
 いつだったか、クラブの時間に、男の子の話で盛り上がったことがあった。アイドルや俳優やスポーツ選手から、小説や漫画なんかの登場人物まで。あちらこちらと好き勝手に言いあって、最終的に身近な憧れやボーイフレンドへと話は移ったのだが。あの質問にまりあは、『家族に対する愛情だよ? あの子はあくまでも、弟だもん』と答えたのだった。正直な気持ちのはずである。けれど、その場の誰一人として、納得してくれなかった。
 すぐに、
『それは絶対に違うっ!』
 と、力いっぱい断言してくれたのだ。それも、全員揃って。
(あれはみごとにハモってたよね)
 思い出して、そういえば昴一はいつの間にこんなに大きくなったんだろう…と、思った。家に来てから小学校六年間くらいまで、昴一は自分よりも小さくって。それに、こんなにふてぶてしい態度をとったりはしなかった。本当にかわいかったのだ。
 昴一は、まりあも大好きだった“武藤のオジちゃま”の一人息子である。“武藤のオジちゃま”は父の親友で、家族ぐるみのつきあいをしていた。オジちゃまが早くに逝ってしまうと、父はすぐさま昴一を引き取った。母が元気だった十二年前、まりあもまだ四つだった。以来、まるで姉弟のように育ってきたのだ。だから、一つ年下の昴一に対する認識は、本当の弟…と言い切って間違いないだろう。多分。それに、近くにいるからという理由で恋愛対象にしてしまうのでは、あまりにお手軽すぎる。なんだかイヤだと思ってしまうのだ。
 そんなふうに考えてしまうのだけど………。
『もったいない。将来いい男になるだろうなァって期待できる少年なんて、はっきりきっぱり貴重だぞ?! まァね、少しばかり無理して大人ぶってるなって印象がなきにしもあらずだけどさ。身近にいるんだし、早いとこゲットしとかないと鳶に油揚げ…なんてことになったら、あれは、悔しいぞぉ』
 ひとしきり騒ぎが収まった後で、美術室には静けさが戻っていた。油絵の具特有の匂いや画布の上に木炭の走る音が部屋を支配した。しかし、画布に木炭を走らせながらぽそりと話を蒸し返したのは、周子だった。
『実体験?! 経験者は語る?! でも、どーしてみんなして、私と昴一を引っ付けたがるかなぁ………。昴一って、将来いい男になるかなぁ? そんなふうに見える?』
 石膏像をスケッチしていたはずである。なのに、ふと下を見れば、漫画絵の女の子が困った顔をしてまりあを見上げていた。
『ふっふっふ……絶対! 彼はいい男に育つと思うなぁ。まりあはボケボケしてるとこがあるからね。だから言うんだよ。あ〜んな絵を描いておいて、武藤君のこと弟としか思ってないなんてオマヌケ言うんだもん』
 周子は振り向きざま手にした木炭で、仕上げたばかりの絵を指した。キャンバスの中では、噂の昴一が弓を構えている。心地好い緊張感の伝わってくる絵である。
 すっと姿勢を正した昴一が弓弦を引き絞り的を狙う。誰よりも昴一が凛々しく綺麗に見える時だった。基本姿勢の良さが皆中率を高めるのかもしれない。弓がしなってゆくにつれて、空気までもがキリキリと張り詰めてゆく。そんな時の昴一を見るのがとても好きで、だから題材に選んだのだけど…。
『あれ? あの絵のこと?』
 自分でもうんざりするくらい写実に徹した絵である。
『そ。あれって愛情いーっぱいの絵だもんね。愛情がなきゃあそこまで描けないってば。ミエミエだよん』
 語尾に大きいハートマークをくっつけていそうな、弾んだ口調でにっこりと周子が笑う。
 そんなぁ…とうろたえるまりあだった。なぜなら、まりあは周子の目を信頼しているのだ。今はシュールレアリズムに凝っていても、批評眼に影響はない。
 周子にああまで言われて、恥ずかしくないわけがない。椅子から立ち上がったまりあは、すばやくイーゼルから絵を下ろしたのである。
(周子にあんなこと言われたら、描き直すっきゃないじゃないっ)
 今あの絵は、まりあの部屋の隅に裏返しのままで置いてある。そのうち白く塗りつぶすかどうするか決めるつもりだった。
 九月末の学園祭あわせに二作品というのが部員一人のノルマだった。あと二ヶ月くらいだから、あまりのんびりと構えてはいられない。
 ヨーロッパ旅行はラッキーだった。というより、真純が覚えていたことが。覚えていて、そうして計画してくれたことが。なぜなら、これは、もともと生前父が計画していたことだからだ。
(たくさん絵を描けるといいな)
 国内にだって絵になるところはある。探す気にさえなれば、もちろんどこにだってあるのだ。けれど、外国というだけで魅力的に感じてしまう。特に、ドイツ。一度は行ってみたいと思っていた国なのだ。
(ミーハー心が騒ぐってやつよね…)
 だから、スーツケースにはしっかりと絵の具とスケッチブックを入れている。もっとも、そんな時間がとれるのかどうか、そっちのほうが問題だったりするのだ。
「部長がなかなか切りあげさせてくれなくってさ。まりあ」
 昴一の声に、はっと我に返った。小さなころの可愛らしさはいったいどこに消えてしまったのだろう。そんなことを考えながら、まりあは昴一の顔をまじまじと見つめた。
「可愛くないっ!!」
 高校一年なのに弓道部のホープだったりする昴一だから、遅くなっても仕方がない。わかっている。高校総体も目前に迫っているし、期待されているからしごかれてしまうのだろう。だから、まりあだって、昴一が来てくれる確率を五割くらいだなと考えていた。
 今朝昴一が部活に行く前に、一応は、
『無理しなくていいからね』
 と、念を押してはいたけれど。
 どうせなら昴一も一緒に行くほうがよかったのだ。父がいたころは、昴一を連れて行かないなんてことはなかった。家族四人で旅行していたのに………。本音を言ってしまえば、真純と俊雄と一緒の毎日は、行く前から気が重くてならなくて。それに――――。
(総体だし………)
「だってまりあはまりあだよ。“姉さん”だなんて、いまさら!!」
 それは…血は繋がってないけど、ずっと本当の弟だと思って接してきたのに。
 三年くらい前からなんだか生意気になってしまった昴一の口癖には、まだ慣れない。今はともかく、落ちこんでいる時に言われると、かなりなショックだったりするのだ。胸が痛いような錯覚さえあるのだから、始末に悪い。
「じゃあ、先輩って呼びなさい」
 自分でも、何を言っているのか混乱してくる。
「イ・ヤ・ダ」
 このやり取りってなんだか変じゃないだろうか?
 たった二週間の不在なのに昴一は見送りに来てくれた。その気持ちが嬉しいのに。なのに、昴一の頑固さに腹が立ってならないのだ。そこまで考えて、我に返った。自分がまるで真純みたいで、そう思った途端に、羞恥心が目覚める。
「もうっ!」
 自分にとも昴一にともわからない苛立ちを、小さな叫びに変えて吐き出す。
 気を取り直して、
「すわろう」
 先に椅子に座り、昴一の学ランの裾を引っ張る。
「ね、昴一、ボリスのことお願いね」
 くどいくらいに念を押さずにいられない。けれど、愛犬のことなのだ。からだの大きさのわりに中途半端な長さの、ゆるくウェーブのかかった毛並み。仔牛ほどもある大きさから放たれる、時には鬱陶しいくらいに押しの強い存在感。二週間も、ボリスと離れなければならないのかと思えば、淋しくて。
「ボリス…ね。わかってるって。あいつ可愛くないけどさ。だって、まりあの言うことっきゃ聞かないんだぜ。三村のオバさんにいたっては舐めきってるし……。オバさんじゃ散歩ムリだもんな。連れて出たとして、引っ張られるのがオチだよなぁ………」
 家政婦のオバさんの心配をする昴一に、
「だから、昴一に頼むんじゃない。ボリスも昴一には一目置いてるみたいなんだもん」
「とりあえず…ってとこさ。順位づけからしたら、僕はせいぜいがとこ、奴と同格ってところ。そうだな、まりあの下僕くんってところだよ。へたすれば、奴よか下だな」
「だ〜れが、下僕くんよ。よーく言って聞かせたから、散歩くらいなら大丈夫。あと、ご飯とボール遊びね。集めてるモンブランの万年筆買ってくるから。忙しくって無理って時は庭に出してやってね。いたずらっ子だけど、ひと噛んだりしないって知ってるでしょう? ねっ」
 まりあが手を合わせる。
 ムカムカしてしまう。理由なんかわかりきっている。たかがボリスのためにまりあが一生懸命になっているからだ。家中を自由に歩きまわり、夜はまりあと一緒に眠るボリスは、オスのボルゾイ犬である。まりあの膝に長い鼻面をのせて、ちろんと横目で見てくる。まるで鼻で笑われているみたいで、小面憎くてならない。
 犬をライバル視してどうするんだ――と、思わないわけではないのだが。それでもやめられないのだから、情けない。
 父のコレクションでもあった宝物が増えても、割に合わない気がする昴一だった。それでも、
「万年筆は今年のモデルがいいな。ボルゾイなんて、知らないひとや犬が駄目ってひとは、デカさだけで退いてしまうって。仔牛の大きさあるもんな。顔の大きさだけとっても迫力だし。だいたいボリスが懐いてんのはまりあにだけだよ。ロシア貴族の猟犬、しかも、狼狩りをしてたのだかなんだか知らないけど、プライド高すぎ。腹見せて撫でてって甘えるの、まりあにだけなんだぜ。もし仮りにだよ? ボリスがオバさん引きずってたって誰も助けてなんかくれないんだから。そんなでかい図体してて、まりあがいなけりゃどうせ拗ねたおすに決まってんだ。詐欺だよなァ……」
 これ見よがしのためいきに、
「図体はともかく、誰かさんの小さなときにそっくりだよん」
 今となっては誰も信じないだろう。けど、幼いころの昴一は、それこそ甘えん坊だったのだ。『まりあお姉ちゃん』と半べそをかきながら、いつだってついてきた。
「そんなむかしのこと、知らないね」
 わざと覚えていないふりをしているのがミエミエの昴一に、思わずまりあは吹き出した。
 ひとしきりクスクスと笑ったまりあの目尻に涙がにじむ。ひとさし指で涙を拭ったまりあは、「ごめん」を繰り返した後で、ほほえんだ。
 花のような――とたとえても、少しも大げさではない。そんな、昴一が絶品だと密かに思っている表情が、惜しみなく目の前にあった。
 つい見惚れてしまう自分がいる。ぼんやりとまりあを見つめてしまう自分だ。あいかわらずの自分に気づいて、どうしようもなく頬が熱くなる。気恥ずかしさに、咳き込む真似をする昴一だった。
 気を取り直して、
「総体、まりあに応援してもらえるって思ってたんだけどね。突然ヨーロッパだなんて、あのひとも何を考えてんだか。ま、考えてみりゃ鏡原のおやじさまの遺言みたいなもんか。……あ、そうだ」
 ごそごそと学ランのポケットを探った昴一は、
「これ。無事に帰ってこいよ」
 と、手を突き出す。
 思わず、まりあは条件反射で手を差し出していた。掌に昴一が落とし込むようにしてのせたのは、航路安全と厄除けのお守りだった。
「空路安全はわかるけど…厄除け?」  錦の袋を持ち上げて、まりあが呟く。それに、
「何もないって思うんだ。思うんだけど、念には念をって言うだろう。気をつけすぎて悪いってことはないからね。気をつけなよ。僕は、真純さんの恋人だっていうあいつが信用できないんだ。どうしても。…まりあは天然ボケなところがあるし。あのひとも、なーんかあいつが絡むと輪をかけて理性がぶっ飛ぶみたいだからさ」
 と、昴一が返す。
 天然ボケ…なんてあんまりだと思う。昴一にしても周子にしても、ボケてるとかマヌケとか、遠慮もなく言ってくれるけど。けど、まったくの見当はずれでもないらしくて、笑い飛ばすことができなかったりするのだ。
「うん。応援行けなくってごめんね。お守りありがと。ずっと持ってるようにするから。……気をつけるね。でも…そうそう怖いことっておきないと思うし」
 そう答えるまりあに、
「あっまーいっ! ヨーロッパ、特に後半の滞在予定のドイツなんて、ネオ・ナチだのもと東ドイツのスパイ崩れだのがごろごろしてるかもしれないんだぞ」
 ふんっとばかりに昴一が主張する。
「コーイチ、今何読んでるの? それってドイツのひとが聞いたら怒るよ。絶対。それに、行くのって観光地だもん。スリとか置き引きに気をつけるほうがよっぽど現実的だよん」
「何って、まりあがこの間面白いって持ってきた漫画文庫だよ。まぁ…ね。あんなことがバンバンあるなんて、僕だって本気で思ってやしないけどさ。ともかく!! 俊雄にだけは
 充分気をつけるんだよ。いいねっ?!」
 あまりに真剣な昴一の表情に、まりあは気圧された。けれど、どうしてここまで昴一が念を押すのだろうと、訝しく思っただけである。だから、安心させようと、とりあえず、「うん。わかった。わかりました。鏡原まりあは武藤昴一の言うことを守って、渡辺俊雄に注意をはらうことを誓います。……これでいい?」
 訊いてみる。
「オッケー。忘れるなよ」
 言うなり、昴一が右手の小指を差し出してくる。
「するの?」
 まりあの顔が嫌そうに歪む。
「恥ずかしければ恥ずかしいだけ、忘れたりしないだろう?」
 悪戯そうにまりあの目を覗き込み、昴一がしれっと言ってのける。
「それはそうだけど……」
「じゃあ、ほら」
 目と鼻の先に昴一の指が突きつけられる。それをじぃっと見たままのまりあに、昴一が焦れた。いきおいよくまりあの右手の小指を掬い、自分の小指に絡めたのだ。
「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます。ゆびきった」
 むかし懐かしい約束をする歌。背丈も百八十近くある昴一が、照れもせずに歌う。それがこれでは、大人びた表情とミスマッチもいいとこだったりする。
 周囲のひとが含み笑いを噛み殺したり、呆気にとられているのではないだろうか? そんな気がして、まりあの頬がこれ以上ないくらいに熱く火照る。
 昴一が歌い終えた時、まりあの乗る便の最終アナウンスが流れた。
「じゃあ、行くね」
 まだ熱い頬に右手で触れながら、まりあが立ち上がる。
「うん。気をつけて」
 そうして、ふたりは別れたのである。
to be continued
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