夢うつつ




 とろり――と、雲が渦を巻いた。

 雲間から、ほんのかすかに、月の光がこぼれる、夜。

 とたとたとた。

 軽い足音が、畳の上を走り去る。

 ―――ああ、鳥だ。

 寝返りを打ちながら、そう思った。

 足元には、黒猫の気配。

 そっと、足の先で、和毛(にこげ)を撫でる。

 黒猫は熟睡している。

 静まり返った部屋の中、再び、駆け抜けた。

 小鳥の気配。

 しかし、小鳥たちは、篭の中。

 これは、いったいなんの音だろう。なんの気配なのだろう。

 思ったとたん、背中を舐め上げたのは、恐怖。

 得体の知れないものが部屋にいる。

 しかし、それは、すぐさまおさまる。

 なぜなら、猫の中でも一番霊感が強いという黒猫が、足元で熟睡しているのだ。

 少なくとも、これは、そういったものではない。

 ただの家鳴りだろう。

 そう思ったときだった。

 ケラケラケラ―――――

 砕いたガラスのかけらのような、そんな澄んだ笑い声が、耳元で聞こえた。

 閉じていたまぶたを開いた私が見たものは――――

 白く輝く、十センチほどのなにか――だった。

 畳の上で、いくつもの、白というよりも銀色の何かが、動いている。

 軽やかに、楽しげに。

 丸いなにかが動くたびに、軽くとたとたと音が鳴る。

 覚えのあるような、銀の光。

 なんだったろう―――

 夢うつつに、手を伸ばして、触れた光の冷たさに、目が冴えた。

 途端、しゃらんと鈴を振るような音がして、銀の光が一斉に飛び上がった。

 一塊になった銀の光。

 きらきらと流れ落ちる、銀色の粒子。

 あまりのまぶしさに顔を背け、再び畳の上に視線を移した。

 しかし、そこには、もはや、何もない。

 ただ、かすかに開いた障子の合わせ目から、かすかに、白々とした月光が差すばかり。

 ケラケラと、名残のような、笑い声が、聞こえたような気がした。



おわり

up 2004/05/20

あとがき
 そんなご大層なもんじゃないですね。
 何を言いたいのか、わからんSS。
 ただ、そんな雰囲気を味わって欲しかっただけかも。
 布団脇をとたとたと、何かが駆け抜けて、猫が知ら
ん振りしてたのは、本当のことです。
 久しぶりのオリジナルがこれというのは、微妙。
 少しでも楽しんでもらえるといいのですが。

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