異端の鳥  4.勇  者





 とある国の聖女が勇者を選んだと報告が届いた。
 王は放置を決め込んだようだった。
 王にとって人界への干渉は、遊びに過ぎないのだ。
 遊びなら、少しばかり手強いほうが楽しい。
 だからこその放置だったのだろう。
 勇者と聞いて、かつての老人の面影を、俺は思い浮かべた。
 義務的に俺に剣を教えながら、それでも、いつしか、なにがしかの感情を瞳の奥に浮かべるようになっていた老人を。
 興味が湧いたのはそのためだったろう。
 俺は、ひとりで勇者がいるという国へ向かった。


 夜の森に、焚き火がひとつ。
 囲むのは、五人の男女だった。
「お前が勇者サマか」
 赤い髪を一本に束ねた勇者は、声をかけるまで俺の気配に気づかなかったらしい。
 それは、周囲の仲間たちも同じで、突然の俺の声に、その場は今更ながらの緊張を孕んだ。
 振り返った勇者の青い瞳が、俺を見上げた。
「女か」
「失礼だね。あんたは魔族かい」
 ぞんざいな口の聞き方に、俺は一瞬呆気にとられた。
「そうだ」
 周囲が剣を抜こうとするのを、女が止める。
「敵意はないようだが」
「ああ。魔王陛下が放置を決定したのでな。手出しはしない」
 周囲がざわめく。
「そんなこと、教えていいのかい」
「かまわないさ」
 ハッと、俺は一度だけ笑った。
「これくらいのことで陛下が俺を罰することはない」
「たいした自信だねぇ」
「事実だ」
 俺の全身を青い目が見る。
「で、あたしに何の用だい」
「今回の勇者サマとやらの実力を見せてもらいたくてな」
 俺の手が剣に伸びる。
「まぁさっきみたいに油断しきってたあんたのじゃなくな」
 炎に照らされてわかりづらいが、勇者の頬が少しばかり屈辱に染まったように見えた。
「手出しはしないんじゃなかったのかい?」
 気を取り直したらしく、尋ねてくる。
「手出しはしないが、興味はある」
「詭弁だね」
 言いざま腰を浮かした勇者の手が剣の柄にかかった。そのまま、止まる。
「どうした」
 そのまま固まった勇者に声をかける。
「今回の?」
「そうだ。お前が今回の勇者サマだろう」
「まるで前回の勇者のことを知っているような口ぶりだね」
「ああ。知ってる」
 彼を思い出したから、興味がわいたのだ。
「前回の勇者だと」
「魔王を葬れなかった勇者のことか」
 外野がうるさい。
「生きているのかい?」
「まさか」
 どんな長生きな人間だ、それは。
「どうなったんだい。彼の最後は?」
 末路が気になると言うことか。
「虜囚となって最後は魔物に喰われた」
 勇者が息を呑んだ。それは他の仲間たちも同じだった。
 当然だろう。
 己たちの遠からぬ未来であると悟ったのかもしれない。
「前回の勇者は………あたしの父方のご先祖さまだ」
 さすがは勇者と褒めるべきか、彼女が一番に気を取り直した。
「そうか。今回の勇者サマはそうならないように気をつけることだ」
 俺は肩を竦めた。
 肩を落とした勇者に、少々毒気が抜けたのだ。
 踵を返しかけた俺に、
「まちなよ。あたしの力量を確かめなくていいのかい」
 慌てたような声がかかった。
「ああ。気が削がれた。次の機会があれば、また来ようさ」
 俺は右手をひらひらと振って、その場を後にした。
 俺を追いかけようとする気配は感じたが、勇者のものではないようなので、気にはしなかった。


 次に俺が彼女と会ったのは、魔族対勇者の混戦のさなかだった。
 魔王も沈黙を破ることを決めたのだ。
 それだけ、彼女の力は侮りがたいものだったということだろう。
 各地をめぐるうちに賛同した者が増え、彼女たち一行は数を増やしていった。
 それがまずかった。
 とはいいながら、まだ王の本気もぬるい。ハエを手で追い払うていどのものだ。しかしながら、いかんせん、ハエの数が増えすぎた。ために討伐隊の数を増やした。そこに俺はなんらかの役割が与えられているわけではない。それは王の正式な軍が当たっている。俺は、いや、俺たち半魔の六人は、あくまでも非正規な存在なのだ。ゆえに、基本的に俺たちの行動自体は自由だった。戦闘に参加するもしないも、自侭に任されていた。所詮は王のペット。邪魔にならなければいいくらいにしか思われていないのだろう。
 その戦闘に俺たちが参加したのは、俺の気まぐれだった。
 勇者の仲間を何人も葬り去った後、気がつけば勇者が目の前にいた。
 いざ彼女と剣を交えようとしたその時、勝敗は決したのだ。
 退却の狼煙が互いの陣から上がる。
 勝敗を決した後など、魔物に任せておけばいい。
 魔物が本能に任せてその場に残る敗者を好きにする。
 けれど、俺は退く気にはなれなかった。
 それは彼女も同様だったらしい。
 甲冑から覗く悔しげな彼女の青いまなざしを見ながら、俺は彼女と初めて剣を交えた。
 負けた彼女を連れ戻れば面白いだろうと、そう思ったからだ。
 しかし、願いは叶わなかった。
 彼女は、後方に控える魔術師に呼び戻された。
 消えた彼女の残像を名残惜しげに見る俺を、部下が取り囲む。
「ご帰還ください」
 俺は、部下の薦めるままに帰還した。
 戻った俺は、王に呼ばれた。
 返り血すら浴びなかった俺だから、そのまま王の元に参じればよかったろうが。
 やはり気持ちが悪い。
 湯を浴びてから王の元に出向いた俺を待っていたのは、王の冷ややかな視線だった。
「私を待たせるとはいい度胸だ」
 機嫌が悪いのを感じたが、今更どうしようもない。
「なにかお気に召さないことをいたしましたでしょうか」
「したな」
 言いざま、王は俺の腕を掴んで引き寄せると、くちづけを落とした。
 噛み付き、深いものへと変化するそれは、どこかいつものとは違って、俺を容易く惑乱の淵へと突き落とした。
 背後から抱きかかえられて自重で苦しむ俺の胸元を、王の白い指がまさぐる。
 すっかり立ち上がった俺の男性器は、先走りをしたたらせ、生々しいほどの存在感を見せている。
 それでも、イかせてはもらえない。
 くびれの根元に嵌められた金の輪が、俺の遂精を阻んでいる。
 何度も、俺は、ドライのまま果てては、高められている。
 際限ない拷問じみた交合に、気を失うことさえ許されずに、だらしなく開いたままの口からは、唾液とただ掠れた喘ぎが漏れるばかりだった。
 怠いからだを起こすと、なにか違和感を覚えた。
 王はいない。
 髪を掻きあげ、違和感の正体に気づいた。
 俺の乳首を小さな金の飾りが食んでいた。
 ちりちりとした痛みが快感の火種となって、俺の性器へと命令を下す。命令に従いたくても従えないほど嬲られ尽くした性器にはまだ、輪が嵌められたままだった。
「くそっ」
 乳首を苛むそれを外そうとした時、
「外すことはならぬとの仰せです」
 部下の声が聞こえた。
 くちびるを、噛む。
 何が気に入らないのか。
「湯を浴びる」
 そのまま俺は隣接する湯殿に向かうことにした。
 どうせ立ち上がれないのだ。情けなくも部下の手を借りて、俺は、湯を浴びた。
 いつものことだが、羞恥がないわけじゃない。
 ガキの頃に連れてきて面倒を見た奴らに、俺のあられもない姿を知られているのは、屈辱以外のなにものでもない。
 しかし、それが王の望みなら、俺は、逆らうことはない。
 死ねといわれても、俺は逆らわない。
 むしろ、いつかそれを口にしてはくれないだろうかと、俺は心の奥底で願っていた。
 ちりちりと俺を苛む痛みからは、その夜王に抱かれるまで解放されることはなかった。
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つづく




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