終わりなき夜







プロローグ




 暗い道は、決して平坦なものではなかった。
 砂利めいて尖った石が、目の前にどこまでも広がる。細く険しい道が延々とつづいているばかりだ。
 ごろりと安定を欠く石に、裸足の足を取られて転びそうになる。
 どこに向かっているのだろう。
 行く先は、見えない。
 自分にも、まったく、わからなかった。
 曲がりくねった道野辺には、鉄条網のように絡み合う、鋭い棘で武装した荊の垣根が生い茂る。黒に見まがうばかりの茎や葉のあわいに、今にも血をしたたらせそうな、恐ろしいほどに赤い、剣咲きの薔薇が揺れていた。
 からまりあった荊が、ざわりと震えて枝を伸ばす。
 おいで――と。
 おまえも、ここにおいで。
 声なき声が、耳を聾する。
 ふと見下ろせば、茨が足に絡みつき、這い登りかけていた。慌てて、足を振る。
 棘の生えた茎の動きが止まると同時に、耳鳴りがするほどの静寂が訪れた。
 諦めたのか。そう思った時だった。
 ぽとり。
 音たててこぼれ落ちた花首が、飛び散るように崩れる。視線の先で、砕けたはなびらが、どろりと黒く溶けて、てらりと光る溜まりをつくった。
 地面に染みとおることなく広がったそれは、なにかを思い起こさせる。
 忘れてしまいたい、けれど、忘れてしまうことなどできない、血溜まりだ。
 ぐぼっ。
 不気味にこもった音と共に、血を連想させる溜まりが、沸きかえるように盛り上がって弾けた。そうして、幾筋もの、粘りつくような質感の波紋を、赤い水面に描いてゆく。
 その中に現われたものを見て、
「!」
 自分自身の悲鳴で目覚めた。
 心臓は、今にも破裂してしまいそうな、鼓動を刻む。
 全身が震えている。
 息が荒い。
 軋るように喉が痛む。
 夢の中、黒々と粘りつく血にまみれて、自分を凝視していたモノ。
 記憶にいまだ生々しい夢の中に現われたのは、母であり、母の夫であった。そうして、はっきりとは判別のつかない、たくさんの、顔。
 血だまりの中の不気味なほど青白い容貌は、赤黒い粘液の中にあって、壮絶なほどの恐怖を覚えるものだった。
 べっとりと血にまみれ、頬に額に貼りついた髪の毛から、血液が重怠くしたたり落ちる。
 血の気の失せた頬をつたい、ぬるりとすべり落ち、血だまりの中にゆるい波紋を幾筋も描く。
 噛みしめられたくちびる。
 光をなくし、でろりと見開いたままの幾対ものひとみが、脳裏を過ぎり消えた。


つづく



from 10:00 2004/03/08
up 09:18 2005/11/21
あとがき

 日付を見ればわかることですが、ず〜っと、抱え込んでる長編です。
 実は、まだ、完成していない。
 泥縄もいいとこなんですけどね。
 ちょっとずつでもアップしていけるといいなぁと思ってます。
 少しでも楽しんでいただけるといいのですけど。


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